コラム

87 相続人のいない相続のゆくえ(3) 相続財産管理人による清算・特別縁故者・国庫帰属

2019年06月19日

先回からの続き

 ところで、ようやくタイトルにある「相続人のいない相続」の話になるのですが、ある人の死亡を契機として、その人を被相続人とする相続が開始し、被相続人に帰属していた権利・義務は、相続人(法定相続人)へと承継される、というのが「相続」ですが、被相続人に相続人がいない、あるいは全ての法定相続人が相続放棄をしたという場合、被相続人に帰属していた権利・義務はどうなるのでしょうか。

 これはあまり知られていないことかもしれません。

 

 民法上、相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人となります(民法951条)。

 すなわち、「~会社」などの社団法人や、「~財団」などの財団法人のように、相続財産に「法人格」(権利義務の帰属主体となる地位)が与えられる、ということになります。 

 そして、「利害関係人又は検察官の請求」により、家庭裁判所は、法人たる相続財産の管理人を選任し(民法952条1項)、以後、管理人(相続財産管理人)が、被相続人の債権者らからの法定手続に従った申出があった場合には、しかるべく相続財産から弁済するなど、清算を進めることになります。

 債務の弁済をするなどしても、なお遺産たる財産が残存した場合、家庭裁判所は、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求」を踏まえ、「相当と認めるとき」は、「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる」とされます(民法958条の3「特別縁故者」)。 

 特別縁故者への分与を経ても、なお遺産たる財産が残存する場合、最終的には国に帰属する、とされます(民法959条)。

 

 このように、民法は、相続人がいない相続について、相続財産管理人の制度を用意していますが、同制度は、「利害関係人又は検察官の請求」を踏まえ、家庭裁判所が相続財産管理人を選任することが出発点とされます。

 利害関係人とは、例えば、被相続人の債権者や、被相続人から不動産を購入したもののいまだ登記を経ていない者などですが、被相続人に常にこのような利害関係人がいるとは限りませんし、利害関係人が常に相続財産管理人の選任を家庭裁判所に求めるとも限りません。また、検察官のもとへ、常に相続財産法人に関する情報が寄せられるわけでもないでしょう。 

 ですから、相続人のいない(相続人の存在が不明の)相続のうち、相続財産管理人が選任されるケースはごく一部であろう、と考えられます。

 そして、そのことも、所有者不明の土地が生じる原因の一つとなっているのではないか、と考えられます。

 冒頭記載の2019年6月15日付毎日新聞朝刊の記事に戻りますと(▷コラム85「相続人のいない相続のゆくえ(1)」)今後、相続人のいない土地について、国に贈与することが認められることになる可能性があるようですが、土地を所有しているが相続人はいない、という人の全てが生前に国に対して所有土地を贈与するとは考えにくいことからすれば、制度が改正されたとしても、なお所有者不明地が発生する事態を避けることはできない、ということになるのではないでしょうか。

 

弁護士 八木 俊行

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