コラム

85 相続人のいない相続のゆくえ(1) 国への土地の生前贈与が可能に?

2019年06月16日

 2019年6月15日付毎日新聞朝刊に「『相続人いない土地』贈与」「国と生前契約可能」とのタイトルのもと、「財務省の財政制度等審議会分科会は14日、相続人がいないと見込まれる土地の持ち主が、国へ贈与する契約を生前に結べるようにする仕組みの整備を盛り込んだ答申をまとめた。登記が長年放置され、所有者不明となった土地が増えるのを国有化で防ぐ狙いがあり、2020年度にも制度化する」との記事が掲載されていました。

 同記事には、全国の所有者不明地は、2016年時点で九州の面積を上回る約410万ヘクタールに上るとの試算もある、という指摘もありました。

 驚くべき現状が存在するのではないかと思いますが、なぜこのような事態に至ったのでしょうか。

 

 土地・建物といった不動産は、誰が所有者であるのか、金融機関の抵当権は設定されているのか、といった権利関係が、法務局が管轄する「登記」を通じて、広く社会に公表されています。

 不動産に関する登記事項は、利害関係のあるなしに関わらず、誰であっても証明書(登記事項証明書)の交付を受けるなどすることができます(不動産登記法119条1項)。

 

 このような不動産登記には、どのような機能があるでしょうか。

 例えば、Aさんが、Bさんから、Bさんが所有するという一戸建て住宅を購入しようという場合、まずは登記によって、Bさんが本当にその土地・建物の所有権者であるのかを確認するでしょう。

 もしも登記上、Cさんの所有となっていることが判明したとすれば、Aさんは、Bさんに事情を確認するでしょうし、合理的説明がなければ、Bさんとの交渉を打ち切ることになるでしょう。

 真実の権利者であるCさんにとっては、自身の所有権を登記し、広く社会に公表することで、権利が守られることにつながった、と言えるでしょうし、土地と利害関係を持とうとしたAさんにとっては、無権利者との取引により損害を被る、あるいは紛争に巻き込まれるといった事態を回避できた、と言えるでしょう。

 

 このような不動産登記の機能からすると、ある不動産について権利を有する者は、登記手続をすることによるメリットがあるわけですから、積極的に登記手続をするはずで、結果として、ある不動産について真実の権利者と登記上の所有者は一致することになるはずだ、とも考えられます。

続く

弁護士 八木 俊行

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