コラム

86 相続人のいない相続のゆくえ(2) 所有者不明地はなぜ生まれる?

2019年06月17日

先回からの続き

 不動産登記にメリットがあるならば、不動産について権利を有する者は積極的に登記手続をするはずであり、結果として、不動産について、真実の権利者と登記上の所有者は一致することになるはずだ、とも考えられます。 

 

 ただ、そのためには、少なくとも、真実の権利者が、その不動産について、あえて登記手続をするだけの価値があると考えることが必要でしょう。

 なぜならば、登記手続には一定の負担が伴うからです。

 すなわち、所有権移転登記手続をするためには、まずは自身が不動産の権利者(所有権者)であることを説明するに足りる資料が必要となります。
 相続を原因として不動産を取得したというならば、「被相続人が死亡したことを示す資料」、「相続人が誰であるのかを示す資料」、これを前提として「その者が権利を取得したことを示す資料」が求められるでしょう。
 そのためには、例えば、親族関係を明らかにする戸籍謄本類が必要であり、相続人が複数名存在するならば、全ての相続人が作成に関与した遺産分割協議書等が必要です。

 また、対象不動産の価値と、対象不動産を取得した理由(取得原因)に応じて、法務局に所定の手数料を納付する必要もあります。「対象不動産の価値を示す資料」も求められるでしょう。

 

 現在の法制度では、売買や相続などで不動産に関する権利を取得した者が登記手続をしなかったとしても、積極的なペナルティがあるわけではありません。 

 そうすると、権利者は、対象不動産について相応の価値がある、と考えられないならば、あえて登記手続をすることもないのではないか、と考えられます(このような指摘は、以前、吉原祥子氏著「人口減少時代の土地問題」《中公新書》でも目にした記憶です)。

 その積み重ねが、膨大な面積の所有者不明地が存在する、という日本の現状へつながったのでしょう。

 

 法制化は今後のこと、ということですが、現在の構想では、相続人がいない人は、生前に、国との間で、所有する土地について贈与契約を締結し、これを国に帰属させることができる、ということになるようです。 

 もしこのような制度が創設されるならば、国に帰属するに至った土地がどのように有効利用されることになるのかも問われることになるではないでしょうか。

続く

弁護士 八木 俊行

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