コラム

131 【交通事故損害賠償問題】交通事故の被害者は、加害者加入の保険会社に支払いを請求できるか?

2023年10月25日

 交通事故で損害を受けた場合、被害者は、加害者に損害賠償を請求し、これにより被害の回復を図ることになります。法律上、損害賠償義務を負うのは加害者であるからです(民法709条、自動車損害賠償保障法3条など)。

 金銭支払請求の相手方は、原則として加害者である、ということになります。

 

 では、被害者は、加害者以外の者に、金銭の支払いを請求することはできるでしょうか。例えば、加害者が自動車保険に加入している場合、被害者は、加害者が保険契約を締結する保険会社に対して金銭の支払いを請求することはできるでしょうか。

 

 自動車保険には、大別すれば、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)とそれ以外の保険があります。

 前者は、各自動車について加入が義務付けられているもので(自動車損害賠償保障法5条)、「強制保険」とも言われます。

 後者は、自賠責保険では補填できない賠償責任をカバーするためのもので、加入が強制されているわけではないことから、「任意保険」とも言われます。

 

 このうち、自賠責保険については、法律上、被害者が、自賠責保険会社に対し、金銭の支払いを請求することが認められています(自動車損害賠償保障法16条。「被害者請求」と言われるものです)。

 

 では、任意保険について、被害者が、任意保険会社に対し、金銭の支払いを請求することができるでしょうか。

 この点について、法律には特段の定めはありません。改めて保険法を確認しましたが、被害者の直接請求権に関する定めはありません。

 ただ、被害者が保険会社に直接請求できるか否かは、任意保険契約の内容によるはずです。そして、任意保険の契約内容は、保険会社が定める約款によります。

 Web上で、ある大手損害保険会社の自動車保険の約款を確認することができました。

 これによれば、概要、次のような定めがあります。

 

(1) 対人事故または対物事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、当会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当会社に対して(3)に規定する損害賠償額の支払を請求することができます。

(2) 当会社は、下表のいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して(3)に規定する損害賠償額を支払います。ただし、対人事故により生命または身体を害された者1名または1回の対物事故について、当会社がこの賠償責任条項および基本条項にしたがい被保険者に対してそれぞれ支払うべき対人賠償保険金または対物賠償保険金の額を限度とします。

①被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合

②被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合

③損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合

④法律上の損害賠償責任を負担すべきすべての被保険者について、次のいずれかに該当する事由があった場合

ア 被保険者またはその法定相続人の破産または生死不明

イ 被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと

⑤対人事故の場合、(3)に規定する損害賠償額が保険証券記載の対人保険金額を超えることが明らかになったとき。

(3) 以下省略

(引用終わり)

 

 このような約款が存在するならば、被害者は、上記①~⑤のいずれかに該当する場合、加害者加入の任意保険会社に対し、直接、金銭の支払いを請求できる、ということになります(※ただし、保険会社側が被害者の直接請求権の存否・内容について争う可能性は当然ありますので、被害者と保険会社の間で訴訟となることもあるでしょう)。

 

 ですから、例えば、加害者が交通事故後に破産した場合や、加害者が交通事故後に死亡し、法定相続人全員が相続放棄した場合など、被害者が、加害者あるいはその承継人に対して支払請求することが困難な状況に至ったとしても、事故当時、加害者が任意保険に加入していたならば、なお任意保険会社に支払いを請求する余地がある、ということになります。

  加害者が行方不明・音信不通などの事情のため示談交渉できない場合、訴訟提起して判決を得ることで、加害者加入の任意保険会社に請求することも考えられるでしょう。

 

 なお、事故当時、加害者が任意保険に加入していたのか否か、加入していたとすればいずれの保険会社か、といった事情は、直ちに把握できる事情ではありません。むしろ、個人情報保護が重視される時代であり、被害者が知ることは容易ではないでしょう。

 この点は、例えば、弁護士への委任が必要となりますが、弁護士法23条の2所定の弁護士会からの照会(弁護士会照会)を利用することで調査できる場合があります。

 

名古屋・伏見の弁護士 八木 俊行

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