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コラム
112 養育費の支払いを確保するために
2019年09月18日
夫婦は、離婚すれば法律的には他人となります。一般的には、離婚後、夫は、別れた妻の生活費を負担する義務はありませんし、離婚後、夫が死亡したとしても、別れた妻が相続人となるものでもありません。
しかしながら、夫婦の間に生まれた子がいるならば、夫婦が離婚したとしても、夫婦(父母)それぞれに子との関係は続きます。夫婦関係が離婚によって終了したとしても、親子関係には何ら関係がありません。
親子は依然として親子であり、法律的には、親は、子が自立するまで、その生活費(養育費)を負担するべき義務があります。ある子に父母がいるならば、父母のそれぞれが負担するべき養育費の金額は、双方の収入や子の年齢といった客観的事情によって定まる、と考えられています。
離婚によって夫婦が別れて暮らすことになるとすれば、子は、父母のいずれか一方と生活を共にすることにならざるを得ません。子と離れて暮らす親は、次第に子との関係が疎遠となり、本来、負担するべき養育費の負担もしないようになり、ますます子との関係が疎遠になっていく、ということもあるのでしょう。養育費不払いの問題は、広く社会に存在します。
本来、養育費を負担するべき親が任意に支払わない、という場合、これを解消するために、どのような手段があるでしょうか。
一つには、養育費を負担するべき親の財産から相当額を強制的に回収する、ということが考えられます。民事執行手続による強制執行の問題です。
なお、2020年5月17日までに改正民事執行法が施行される予定ですが、そこでは、養育費支払請求権を実現するため、裁判所に対し、市町村、あるいは日本年金機構などに対して、養育費支払義務を負う者(債務者)の勤務先に関する情報提供を命じるよう、求め得ることになりました。
また、この問題に関し、今朝(2019年9月18日)の毎日新聞朝刊に気になる記事が掲載されていました。
以下、引用しますと、「養育費不払いで氏名公表の条例」、「兵庫・明石市検討」、「兵庫県明石市は、ひとり親の市民が離婚相手から養育費を受け取れず、『泣き寝入り』して子どもと困窮するのを防ぐため、養育費の受け取りを支援する条例を検討している。離婚相手に養育費の支払いを命じ、従わない場合は氏名を公表するほか、市が所有する勤務先などの情報を提供する手続きの導入も目指す」、ということです。
先日、昨今の明石市の取り組みをテーマにした「子どもが増えた!明石市人口増・税収増の自治体経営」(湯浅誠氏、泉房穂氏ら編著)という書籍を目にしました(一部ですが)。明石市は、泉市長のもと、子育てを支援するまちづくりを進めており、その結果、人口が増えている、という趣旨の書籍であったと記憶します。そうすると、記事にある施策も、子育て支援の一環として検討されているのでしょう。
しかしながら、氏名の公表は、対象者の名誉やプライバシーなどの権利利益の侵害が問題となり得ます。市が保有する市民の勤務先に関する情報も、行政機関が保有する個人情報にほかなりません。前者を公表し、後者を利害関係の対立する相手方に開示することには、多くの問題があるように思われますし、これを裁判所の手続を通じてではなく、明石市役所という行政機関の手続を通じて実現するというならば、そのことにも問題があるように思われます。
記事によれば、「養育費の不払い対策として条例で氏名を公表するのは全国初」とのことですが、このような施策にはさまざまな問題があり導入は難しい、との判断がなされてきた、ということなのではないでしょうか。
ただ、もしもこのような制度が、さまざまな問題を乗り越えて現実に導入されるならば、養育費の支払い確保に大きな効果を持つことでしょう。あるいは明石市の施策が呼び水となり、いずれは他の自治体でも導入されることになるのでしょうか。
明石市は2020年3月議会に条例案を提出方針とのことですから、今後の展開が注目されます。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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