コラム

111 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(5)

2019年08月19日

先回からの続き

 このような事実関係において、最高裁判所令和元年8月9日判決は、次のように述べ、被上告人の相続放棄の申述は熟慮期間内になされたもので有効である、と認めました。

 

 まず、同判決は、相続放棄に関する民法915条1項の趣旨及び文言解釈について次のとおり述べました。なお、これは、これまで最高裁昭和59年4月27日判決などで述べられていたことを踏襲するものです。

「相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく、被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものである。熟慮期間は、相続人が相続について承認又は放棄のいずれかを選択するに当たり、被相続人から相続すべき相続財産につき、積極及び消極の財産の有無、その状況等を調査し、熟慮するための期間である。そして、相続人は、自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ、当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないのであるから、民法915条1項本文が熟慮期間の起算点として定める『自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうものと解される」

 

 その上で、民法916条1項の趣旨及び文言解釈について次のように述べ、被上告人の相続放棄の申述は熟慮期間内になされたもので有効である、と認めました。

民法916条の趣旨は、乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには、乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて、丙の認識に基づき、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである」

再転相続人である丙は、自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって、当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。また、丙は、乙からの相続により、甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの、丙自身において、乙が甲の相続人であったことを知らなければ、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない丙が、乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず、丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって、甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する

民法916条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである」

「なお、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について、乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは、同条がその適用がある場面につき、『相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したとき』とのみ規定していること及び同条の前記趣旨から明らかである」

「前記事実関係等によれば、被上告人は、平成27年11月11日の本件送達により、BからAの相続人としての地位を自己が承継した事実を知ったというのであるから、Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間は、本件送達の時から起算される。そうすると、平成28年2月5日に申述がされた本件相続放棄は、熟慮期間内にされたものとして有効である」

 

 常識的かつ妥当な判断ではないでしょうか。

 このような判断の背景には、やはりこの類型の問題においては、被相続人に関する事情を知らなかった相続人を保護する必要性は高く、その反面、債権者は本来の債務者に履行を求めるべきであり、相続によって履行請求する相手方が増えるのはあくまで偶然の事情によるものに過ぎず、保護する必要性(相続人に対する履行請求を認めるべき必要性)が高いとは言えない、という各関係者の利益状況に対する問題意識があるのでしょう。

 高齢化社会である我が国では、今後、相続案件は増大すると予想されます。あるいは今後の同種案件において、簡易迅速な処理を可能にすることも意図されたのかもしれません。

 

弁護士 八木 俊行

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