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コラム
89 平成29年民法改正(3) 民事法定利率が変わる②
2019年07月2日
先回からの続き
平成29年民法改正により、法定利率は3年ごとで変動が生じる可能性があるとすると、ある債権の成立から消滅までの間に法定利率が変動する、という事態が生じ得ることになりますから、ある債権の利息等を算定する際にいつの時点の法定利率によるのか、という点も問題となり得ます。
この点は、次の通りとされました。
①債権の利息:「利息が生じた最初の時点における法定利率」とする(改正後民法404条1項)
②債権の遅延損害金:「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率」とする(改正後民法419条1項)
また、民事法定利率の改正に関連して、「中間利息控除」の計算方法も変わります。
中間利息控除(ちゅうかんりそくこうじょ)とは何でしょうか?
民法が扱う問題の一つに、損害賠償請求という類型がありますが、そこで賠償を求める損害は、すでに発生しているものだけではなく、将来発生することが予想されるものも含まれます。
例えば、交通事故によって被害者に重い後遺障害が残存して労働能力の一部を喪失したとすれば、被害者は、将来的に得られるはずであった収入の一部を失い続けることになります(後遺障害逸失利益)。
このような将来的に発生が予想される得べかりし利益の喪失(逸失利益)も損害賠償の対象となりますが、金銭賠償の原則の下、このような損害も金銭的に評価せねばなりません。
そこで、将来的に得られるはずの利益を、現在の価額に換算する作業が必要となるわけですが、利息が存在する民法の世界では、10年後の100万円と現在の100万円は等価ではありません。10年後の100万円を現在価額に換算すれば、10年間に対応する利息分が減額調整されることになります。
このように、将来得られるはずの利益を、現在の価額に換算する際、現在から将来までの期間に対応する利息分を控除することを「中間利息控除」と言います。
かねて、民法には、中間利息控除に関する条文は何ら存在しませんでしたが、実務上、将来得られるはずの利益を喪失した事実を損害賠償の対象とする際、当然に中間利息控除が行われていました。そして、中間利息控除に用いる利率は、民事法定利率である年利5パーセントが用いられていました。
年利5パーセントが用いられることで、中間利息控除によって、時に損害賠償額からかなり大きな金額が控除される事態が生じていました。
平成29年民法改正により、民事法定利率は、年利3パーセント(そして、3年を1期とする変動制)へ移行しましたが、改正に伴い、中間利息控除に用いる利率は民事法定利率とすることが明確化されました(改正民法417条の2、722条1項)。
中間利息控除に際し、これまでは年利5パーセントが用いられていたことと比較すれば、年利3パーセントで計算されるならば、控除される金額が減額することは明らかであり、後遺障害逸失利益など将来の逸失利益に対する損害賠償の問題に関しては、改正は、被害者に有利に作用するでしょう。
なお、中間利息控除に用いる法定利率は、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率によるものとされました(改正後民法417条の2、722条1項)。
以上に記載したところは、改正後民法417条の2に端的に示されていますので、引用します。
<改正後民法>
417条の2
1項 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。
2項 (省略)
続く
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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