コラム

90 個人情報の流出と慰謝料の金額(1)

2019年07月7日

 誰かが社会的に容認できない行為に及び、それによって被害が生じている、とすれば、民事上、どのような手段をとり得るでしょうか。

 その行為が現在進行形で継続しているならば、行為自体の差し止めを求めることが考えられますし、すでに行為は完了しているならば、発生した損害の賠償を求めることが考えられます。

 損害の賠償を請求するためには、当然ながら「損害」の発生が要件となります。そこで、損害賠償を請求する側で、損害が発生していることを主張・立証することが必要となります。

 一般的に、「損害」は、その行為ゆえに支出を余儀なくされた費用相当額である「積極損害」、その行為ゆえに得られるはずの利益を失ったとすれば、失った利益相当額である「消極損害(逸失利益)」、そして、その行為によって精神的苦痛を受けたとするならば、これを慰謝するに足る「慰謝料」、というように、3つの類型に区分して考えることができます。

 

 このうち、「積極損害」、「消極損害」は、被害の実態に即し、ある程度、客観的な計算式に基づき、金額を算定することができる場合が多いはずです。

 しかしながら、「慰謝料」は、そもそも問題となっているのは被害者の精神的苦痛という人の内面に関することであり、客観的な計算式に基づいて金額を算定することは困難です。

 そのため、過去の同種事件において裁判所が認めた損害額などを参考にして、少なくともこの程度の慰謝料が相当である、という主張をせざるを得ない場合も多いように思われます。

 このようなことから、他の裁判例で、訴訟当事者がどのような主張・立証をし、最終的に裁判所がどのような判断を示したのかは、今後の事件解決のあり方を考える上で重要な意味を持つことになります。

 

 2019年6月29日付毎日新聞朝刊に「ベネッセに賠償命令」、「顧客情報流出1人当たり2000円」との見出しのもと、「ベネッセコーポレーションの情報流出事件を巡り、被害に遭った顧客らが損害賠償請求を求めた控訴審判決で、東京高裁は27日、同社とグループ会社『シンフォーム』に、1人当たり2000円の支払いを命じた」という記事が掲載されていました。

 数年前、確かにそのような事件が報道されていた記憶があります。事件の概要は、インターネットで検索すれば容易に把握できます。

 記事によれば、この事件は、委託先会社の従業員がベネッセの顧客の個人情報(子供や保護者の氏名、住所、電話番号など)を漏洩したというもので、東京高等裁判所は、これに対する精神的苦痛を慰謝するため、慰謝料として1人あたり2000円を認容した、ということです。

続く

 

弁護士 八木 俊行

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