コラム

96 平成29年民法改正(4) 保証が変わる④

2019年07月14日

先回からの続き

 平成29年5月の民法改正のうち「保証人に対する情報提供のあり方を定めたもの」の2つ目として、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失した場合、保証人が法人でない限り、保証人に対し、主債務者の期限の利益喪失の事実を知った時から2か月以内に、その旨を通知する義務を負うこととなりました(改正民法458条の3)。

 

 主債務者の「期限の利益」とは何でしょうか。

 例えば、事業者Aが、金融機関Bから事業資金として1000万円の融資を受けた場合、返済のあり方として、期限が到来した時点で借入金全額を一括で返済すると約定する場合もあるのでしょうが、一定の期間内に分割払いで返済すると約定する場合もあるでしょう。

 借入金を100回に分割し(1回あたりの弁済額は単純計算で10万円)、今後、100か月にわたり、毎月末日限り支払う、などと約定したとすれば、Aが初回に支払うべき金額は10万円であり、その余の990万円については弁済期限が到来していない、ということになります。

 このように、債務の弁済時期について、期限が定められることには債務者にとって利益となります。これを「期限の利益」といいます。

 このような期限の利益は、一定の場合に喪失されます。

 民法上は、債務者が破産手続開始決定を受けたときなどが期限の利益喪失事由として定められています(民法137条)。

 また、当事者間の合意によって期限の利益喪失事由を定めることもできます。例えば、前記の例で、事業者Aと金融機関Bの間で、1回でも不払いがあれば、債務者は残債務全額について期限の利益を喪失し、直ちに残債務全額を弁済せねばならない、などと定めていたとすれば、Aは初回の10万円の支払いを怠ることで、1000万円全額について履行遅滞に陥り、以後、残債務全額を対象に遅延損害金が発生する、ということになります。

 期限の利益を喪失することで、債務者には極めて重い負担が生じることになります。このような一種の制裁で、債務者が将来にわたり約定どおりに支払いを継続することを促している、と言えます。

 

 前記の事例において、事業者Aの主債務を保証人甲が保証していたとすると、甲は、Aの元本1000万円の支払義務のみならず、これより生じる遅延損害金についても保証人として責任を負わなければなりません(民法447条1項)。

 仮に、事業者Aと金融機関Bの約定において、遅延損害金の利率を14.6パーセントなどと定めていたとすると、Aの債務は、単純計算で、1年間で146万円増額することとなります。その全てが、保証人甲が負担するべきものとなります。

続く

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
名古屋市中区錦2丁目8番23号
キタムラビル401号
(地下鉄伏見駅1番出口・丸の内駅6番出口各徒歩約2分)
法律相談のお申し込みは