コラム

97 平成29年民法改正(4) 保証が変わる⑤

2019年07月15日

先回からの続き 

 主債務者が期限の利益を喪失し、債務全額について期限が到来すると、以後、発生する遅延損害金は極めて大きなものとなり得る以上、遅延損害金についても責任を負わなければならない保証人は、主債務者が期限の利益を喪失したならば、自身の負担が大きなものとなる前に早急に対処するべく、直ちにそのことを連絡して欲しいと考えるのが当然です。

 しかしながら、これまで、主債務者が期限の利益を喪失した事実を保証人が知ることができるよう手当てした制度は存在せず、その結果、保証人が事情を知った時点では、すでに主債務からまとまった金額の遅延損害金が発生しており、これについても責任を問われるという、保証人にとって極めて理不尽な事態も不可避的に生じていました。

 

 そこで、平成29年民法改正によって、前記の通り、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失した場合、保証人が法人でない限り、保証人に対し、主債務者の期限の利益喪失の事実を知った時から2か月以内に、その旨を通知する義務を負うこととなりました(改正後民法458条の3)。

 

 では、債権者が、主債務者が期限の利益を喪失した事実を知りつつ、法人でない保証人に対してその旨を通知しないとすれば、どのようなことになるのでしょうか。

 その効果は明文で定められています。すなわち、債権者は、このような通知を怠った場合、「主たる債務者が期限の利益を喪失した時から」、「通知を現にするまでに生じた遅延損害金」を保証人に請求できない、ということになります(改正民法458条の3第2項)。

 

 なお、この規定によって債権者が保証人に対して請求できなくなる遅延損害金とは、期限の利益を喪失したことによって生じる遅延損害金に限られます。期限の利益を喪失しなくとも生じる遅延損害金は、通知の有無に関わらずなお請求できる、という点は留意する必要があります。

 

※参考
(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
改正民法458条の3
1項 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2項 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3項 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

※平成29年改正民法は、原則として2020年(令和2年)4月1日から施行されます。

続く

弁護士 八木 俊行

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