コラム

95 平成29年民法改正(4) 保証が変わる③

2019年07月13日

先回からの続き

 平成29年5月の民法改正のうち、「保証」に関する改正には、保証人を保護するため、保証人に対する情報提供のあり方を定めたものがあります。

 まず、1つ目として、債権者は、委託を受けた保証人から請求があった場合には、保証人に対し、遅滞なく、「主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの」に関する次の情報を提供する義務を負うこととなりました(改正後民法458条の2)。

①これらの債務の不履行の有無
②これらの債務の残額
③これらの債務のうち弁済期が到来しているものの額

 

 いったん保証をすれば、保証人は、主債務者と同内容の責任を負うことになります。ただ、その債務について一次的に責任を負うのは、言うまでもなく主債務者であり、主債務者が約定に従い履行している限り、保証人が責任を問われることもありません。

 そのため、保証人は、保証に応じた後、当分の間、債権者から特段の連絡もない、というのが通例でしょう。

 しかしながら、だからといって主債務者が約定に従った履行をしているのかは分かりません。主債務者と債権者の間で、何らかの問題が生じているものの、直ちに保証人には連絡がなく、後日判明することもあるでしょう。

 保証人からすれば、主債務者が約定どおりに履行しているのか、主債務者と債権者の間で何らかの問題が生じていないか、確認したいと考えるのは当然です。

 しかしながら、これまでの法制度では、保証人から債権者に対し、主債務者の履行状況に関する情報の提供を求めることができる、という趣旨の定めはありませんでした。

 このような情報は、主債務者の信用に関する情報でもあり、債権者からすれば、法律上の根拠なく、保証人の要請に応じて情報を開示することははばかられるものでした。

 

 そこで、法改正により、今後は、保証人の保護のため、保証人から債権者に対し、前記の各情報の提供を請求できるということになりました。

 なお、保証人には、主債務者からの委託を受けて保証する場合と、主債務者の委託なくして保証する場合があります。そして、債権者に対して情報提供を請求できるのは、委託を受けた保証人に限定されるとされました。

 これは、対象となる情報は、前記の通り、主債務者の信用に関するものであり、秘匿の必要性もあることから、情報の提供を請求する権利は、主債務者から委託を受けた保証人にのみ認め、主債務者から委託を受けていない保証人には、このような権利を認めないこととした、と説明されています。

 

 

 では、債権者が、委託を受けた保証人からの請求にも関わらず、遅滞なく情報提供に応じないとすれば、どのようなことになるのでしょうか。

 この点は、改正法に特別な効果が明記されているわけではないようです。

 ただ、これは、委託を受けた保証人に対する債権者の「債務」の問題ですから、その不履行は、一般的な債務不履行の場合と同じく、債務不履行責任の問題となるものと考えられます。

 一般的に、債務不履行責任の効果としては、契約の解除と損害賠償請求が考えられます。

 改正の経緯を解説する文献では、債権者による情報提供義務の不履行は、損害賠償請求の対象となる旨が説明されているものの、解除の可否に言及はないようです(筒井健夫、村松秀樹編著「一問一答民法(債権関係)改正」・株式会社商事法務)。

 債権者による情報提供義務の不履行は、保証契約の解除事由となり得るように思われるのですが、実務はどのように運用されるのでしょうか。

 

※参考
(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務) 
改正民法458条の2 
 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

※平成29年改正民法は、原則として2020年(令和2年)4月1日から施行されます。

続く

弁護士 八木 俊行

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