コラム

114 法曹養成に関する制度改革とその方向性の修正(2)

2019年09月23日

先回からの続き

 ところで、わざわざこのようなことを記載したのは、去る9月11日の内閣改造で、衆議院議員である河井克行氏が法務大臣に就任されたことによります。

 

 河井法務大臣は、かつて司法試験合格者の増加と法科大学院のあり方について強く批判されていたように記憶します。

 そこで、先日、図書館を訪れた際に著書「前法務大臣が明かす司法の崩壊」(2008年10月発行)を確認したところ、河井法務大臣は、法務副大臣に就任された際にこれらの問題に関心を持たれたとのことで、やはり司法試験合格者、ひいては弁護士人口の増加や、法科大学院を中核とした法曹養成のあり方について、明確に批判されていました。

 著書の最終章には、「真の改革実現のための三つの提言」として、「司法制度改革推進計画の閣議決定の見直し」、「二回試験(注:司法修習の修了試験)の厳格化」、「新司法試験の受験資格制限の撤廃」を挙げておられました。

 「新司法試験の受験資格制限の撤廃」とは、法科大学院を卒業しなくても、さらには予備試験に合格しなくとも司法試験を受験できるようにするべきだ、という趣旨です。

 以下、該当箇所を引用します(210頁~211頁)。

 

 「新司法試験の受験資格を、原則として法科大学院修了者に制限する規則の撤廃が、ぜひとも必要である。(中略)そもそも司法試験の受験資格として、法科大学院を経由することを国が強制していることが、すべての間違いの元である。(中略)法科大学院による学校教育という箱物的なシステムだけで、法曹人口の大幅拡大を賄うに足る、優秀な人材を供給することができると考えるのは、ある意味で現実離れしている。(中略)まずは司法試験を受けるために法科大学院を経由しなければならないという、現行の制度を変える。そうすれば、各法科大学院は新司法試験の合格率に追われながら矮小化した受験教育をする必要はないし、現在の硬直化した授業科目や単位数などの規制から解き放たれ、もっと理念に叶った自由で幅広い教育が行えるようになる。(中略)」

 「なお、私がつねづね主張している『受験資格制限の撤廃』は、予備試験という枠の廃止も意味する。(中略)要するに、司法試験の受験資格から、『法科大学院修了者』や『司法試験予備試験合格者』といった制限をすべて取り払い、一発試験とするわけだ。(中略)」

 「新司法試験の受験資格の問題や、合格者数の問題は、司法制度改革審議会でもさんざん議論を尽くしたという。そのうえで閣議決定を経て決まったことだというが、実際にその運用を始めてみて、これだけ矛盾や不都合が噴出してきている以上、抜本的な改善が必要だ。『あのとき十分に議論して決めたのだから突っ走るしかない』という、硬直した姿勢のままでは、国の行く末を誤る。改革とは現状を良い方向に変えるための手段にすぎない。それ自体が決して目的になってはならないのだ」(引用終わり)

 

 書籍は10年以上前に発行されたもので、現在の河井法務大臣のこの問題に対するスタンスなどは存じ上げません。また、そもそも当時と現在では問題自体の状況も異なります。

 ただ、法務省はこの問題の一部を所管することから(根拠法令は未確認ですが、法科大学院は文部科学省、司法試験は法務省、司法修習は最高裁判所がそれぞれ所管しているはずです)、大臣のスタンスによっては、さまざまな可能性があり得るように思われます。

 河井克行氏の法務大臣就任によって、この問題に何らかの影響があるのでしょうか。

 

弁護士 八木 俊行

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