コラム

61 平成30年民法改正(2) 配偶者居住権の創設①

2019年04月20日

 平成30年7月、民法のうち相続分野における法改正が行われました。
 この機会に「配偶者の居住の権利」という章と共に、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」が創設されました。

 

 配偶者居住権とは何でしょうか。

 配偶者居住権とは、「相続開始時点で被相続人が所有する建物に居住していた配偶者が、一定要件を満たす場合に、その建物を無償で使用収益する権利」です(改正後の民法第1028条)。
 一定要件とは、次の2つのうち、いずれかを満たす場合です。 
①遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき 
②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき

 

 平成30年7月の民法改正において「配偶者の居住権保護」が重視された背景には、当然ながら「超高齢化社会」(全人口に占める65歳以上人口の割合が21%以上の社会)とも称される日本社会の現実があります。

 厚生労働省が公表する「平成29年の簡易生命表の概況」によれば、昭和22年には、男性の平均寿命は50.06歳、女性の平均寿命は53.96歳であったものが、平成29年には、男性の平均寿命は81.09歳へ、女性の平均寿命は87.26歳へと変化しました。全体として長寿化していること、これに伴い男性と女性の平均寿命に差が生じていることが理解できます。

 語弊があるかもしれませんが、統計的には、夫婦のうち夫が先に寿命を迎えることが多いということです。そして、遺された配偶者(妻)は、その後も数年以上にわたって生活していく、ということですから、遺された妻のその後の生活への配慮が必要である、ということになります。
 

 これまで、遺された配偶者の居住権保護に特化した制度はありませんでした。

 そのため、夫が所有する不動産(土地建物、あるいはマンションなど)で生活していた配偶者が、夫が死亡後も同建物で居住し続けるには、自らこの不動産を取得する、あるいは他の相続人が取得した不動産に無償の利用権(使用貸借契約に基づく使用借権)、あるいは有償の利用権(賃貸借契約に基づく賃借権)を設定してもらう、といった方策をとらなければなりませんでした。

 しかしながら、前者を選択する場合、金銭的評価の点で、遺産全体に占める不動産の割合は大きいことから、配偶者の法定相続分が相対的に大きいと言えども、配偶者が不動産を取得した場合、それ以外の遺産(例えば、その後の生活に必要となる預貯金・現金)を取得しにくくなる、という問題点がありました。
 また、後者を選択する場合、不動産に利用権を設定するか否か、いかなる利用権を設定するのかは、不動産の所有権を取得した他の法定相続人の意向次第である、という問題点がありました。

続く

弁護士 八木 俊行

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