コラム

60 法定相続情報証明制度

2019年04月18日

 「法定相続情報証明制度」をご存知でしょうか。

 簡単に言えば、ある相続における法定相続人は誰であるのか、法務局(登記官)が認証してくれるというもので、平成29年5月から制度運用が開始されています。 

 

 法律上、人は権利・義務の帰属主体です。人が死亡すれば、権利・義務の帰属主体が存在しないことになるため、これらを承継するために相続が開始します。

 相続開始により、被相続人に帰属していた権利・義務について、実質と形式に不一致が生じることになります。例えば、遺産である預金について、法定相続人間の遺産分割協議により特定の相続人がこれを単独取得するに至ったものの、預金名義人は被相続人のまま放置されているという場合、権利の帰属状態という実質と口座名義という形式に不一致が生じていますから、しかるべき手続により一致させなければなりません。これは、登記制度のある不動産や登録制度のある自動車にも共通することです。 

 

 例えば、預金について、相続人が解約するなどする場合、手続の内容や必要な書類は金融機関ごとに若干異なるでしょう。しかしながら、被相続人が死亡したことや、その相続における相続人は誰であるのか、といった点を資料で証明する必要があることは共通するはずです。そのためには、戸籍・原戸籍・除籍(以下、これらを「戸籍等」といいます)の謄本など資料が必要となります。 

 法定相続人は、遺産の具体的な分割方法について、協議によって決めることができます(遺産分割協議)。遺産分割協議は全ての法定相続人の関与の下で行われるべきものであり、法定相続人が漏れなく参加しているのかは極めて重要です。

 そのため、第1順位である子が相続人となる場合であっても、被相続人の人生のいずれの段階においても子が出生する可能性があることから、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍等謄本が必要となります。また、第2順位の相続人である直系尊属が相続人となる場合も、直系尊属が相続人となるのは、被相続人に子がいない場合に限られることから、やはり被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍等謄本が必要となります。第3順位の兄弟姉妹が相続人となる場合も同様です。時に、関連資料は膨大な分量となります。手続の都度、金融機関等の窓口に資料全てを提出せねばならないというのは、控えめに言っても便利なことではありません。

 また、金融機関等の判断によっては原本を一定期間預かる、ということもあるでしょう。原本が一通しか手元になければ、原本が返還されるまで他の機関で手続を進めることができません。 

 「法定相続情報証明制度」は、このような不都合を解消する制度と言えるでしょう。

 

 制度を利用するためには、ある相続における法定相続人を確定するに足る戸籍謄本、原戸籍謄本、除籍謄本等一式を用意し、「法定相続情報一覧図」を作成した上、申出書と共に法務局に提出し、確認を受ける必要があります。不備があれば、補正が必要ですが、確認が終了すれば、認証文付きの法定相続情報一覧図(写し)が交付されます。提出した戸籍謄本・原戸籍謄本、除籍謄本等一式は返却されます。以後、この認証文付きの法定相続情報一覧図の写しをもって、戸籍等謄本一式に代える、ということですね。

 

 手続を管轄するのは、次の地を管轄する法務局と決まっています。個別事情によって異なりますので、注意が必要です。
・被相続人の本籍地
・被相続人の最後の住所地
・申出人の住所地
・被相続人名義の不動産の所在地

 

 被相続人名義の不動産が各地に点在する、預金が複数の金融機関に存在するなど、複数の窓口で手続をしなければならない場合には、「法定相続情報証明制度」を利用することで、多少なりとも手続はスムーズとなるでしょう。

 

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
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