コラム

38 親権者の懲戒権(2)

2019年02月26日

先回からの続き

 平成23年改正前の民法第822条の定めについて、例えば、「新版注釈民法(25)」(於保不二雄・中川淳編、該当部分は明山和夫・國府剛著)では、親権者は必要な範囲で自ら子を懲戒することができ、そのためには、しかる・なぐる・ひねる・しばる・押入に入れる・蔵に入れる・食事を禁止するなど適宜の手段を用いても良いものの、いずれも「必要な範囲内」でなければならない、と説明されています。

 そして、この「必要な範囲内」とは、懲戒の目的を達成するために必要かつ相当な範囲を超えてはならないということを意味し、例えば、数時間の監禁で足りる場合に数日にわたって監禁する、あるいは、軽くなぐる、ひねるなどすれば足りる場合に終日、食事禁止とするなどはこの範囲を超える、また、子の非行過誤の矯正のために必要かつ相当であっても、懲戒の方法・程度はその社会、その時代の健全な社会常識による制約を逸脱するものであってはならない、といった説明がなされています。

 この文献は、平成6年に初版が発刊されたものであり、私の手元にあるのは平成16年発刊の改訂版です。これは、平成6年当時、あるいは平成16年当時、親が子に対して体罰を加えることは、法律上も一定範囲においては明確に認められていた、ということにほかなりません。

 もちろん、親権者に懲戒権が認められるとしても、その範囲を超えて懲戒権を行使すれば、民事上、違法と評価され、親権者の子に対する損害賠償責任(民法第709条)の問題となり得ると共に、家庭裁判所による親権喪失の審判(民法第834条)、あるいは親権停止の審判(民法第834条の2)の理由となり得ますし、行為態様や結果によって、暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)といった刑事責任の問題ともなり得ることは当然です。

 

 民法第822条は、平成23年に改正されたものの、その際、なお親権者の懲戒権自体は残りました。

 今後、懲戒権に関する規定が削除されることになるとすれば、それは、前記の「新版注釈民法(25)」にある通り、現代日本の「健全な社会常識」では、親の子どもに対する体罰はもはや容認されなくなった、ということを意味するのでしょう。

 子どもの教育に対する考えは、様々であろうと思いますが、現時点での私個人の考えを申し上げれば、体罰の教育的効果は良く分からないこと、その一方で虐待の隠れ蓑になり得るという点も含め、むしろ弊害が大きいのではないかと思われることから、親権者の懲戒権について、これを削除するなどの法改正を行うことには賛成です。

 皆さんは、どのようにお考えでしょうか。

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
名古屋市中区錦2丁目8番23号
キタムラビル401号
(地下鉄伏見駅1番出口・丸の内駅6番出口各徒歩約2分)
法律相談のお申し込みは