コラム

132 【夫婦・親子の問題】離婚成立と過去の婚姻費用の請求(最高裁令和2年1月23日決定)

2023年11月16日

 離婚に至る過程はさまざまであると思いますが、別居を先行させ、離婚条件について協議するなどした後に離婚に至る、という場合があります。

 このような場合、婚姻費用の分担が問題となります。

 

 民法上、夫婦は、「資産、収入その他一切の事情」を考慮して、婚姻費用を分担する義務を負います(民法760条「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」)。

 別居したとしても、離婚が成立しない限り夫婦であることに変わりはないため、婚姻費用の分担のあり方が問題となるわけです。

 夫婦が共働きで同程度の収入を得ている、というならば、夫婦の一方が他方に金銭を請求する、ということにはならないのかもしれませんが、夫婦間で収入に差がある、夫婦の一方が子を養育している、といった事情があるならば、夫婦の一方が他方に対して婚姻費用として金銭を請求できる状況にあることが多いと考えられます。

 例えば、夫Aと妻B、子Cの3人家族で、主に夫Aの収入で家計が支えられている状況で、妻Bと子Cが自宅を出て別居を開始するような場合、妻Bは、夫Aに対し、自身と子Cの生活費として婚姻費用を請求できる、ということになるでしょう。

 

 婚姻費用はいつからの分を請求できるのか、という問題があります。

 支払われるべき婚姻費用の支払いがなされなくなった時点を始期とする、とするのが合理的のようにも思われるところですが、婚姻費用分担調停・審判申立時を始期とする、という裁判例もあり、実務上はむしろこの考え方によることが多いようです。

 

 また、婚姻費用はいつまでの分を請求できるのか、という問題もあり、この点は、一般的に、別居解消時、あるいは離婚成立時まで、と考えられています。

 

 このような婚姻費用に関連して、婚姻費用分担調停・審判が係属中に離婚が成立した場合、なお離婚時までの婚姻費用を請求できるのか、という問題について、判断を示した最高裁判所の決定があります。

 最高裁判所令和2年1月23日決定は、離婚後は、離婚成立までの婚姻費用の分担を求める審判申立ては不適法になる、とした札幌高等裁判所平成30年11月13日決定に対し、

 

「婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず、家庭裁判所は、過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから(前掲最高裁昭和40年6月30日大法廷決定参照)、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできると解するのが相当である。このことは、当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても、異なるものではない」

「したがって、婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえない」

 

として、離婚後も、離婚成立までの婚姻費用を請求できるとの判断を示しました。

 離婚が成立したとしても、離婚成立までの婚姻費用の分担に関する問題が当然に解決されるわけではない以上、上記の最高裁決定の考え方は当然のことで、むしろこれ以外の考え方があるのだろうか、という気もするところです。

 なお、あらためて原審となる札幌高等裁判所平成30年11月13日決定を確認したところ、同決定は、

 

「財産分与の裁判において未払の過去の婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるのであり(最高裁判所昭和53年11月14日第三小法廷判決(中略))、本件において、被抗告人は抗告人に対して、財産分与の裁判において未払の過去の婚姻費用の清算のための給付を求めることが可能であって、相当であるというべきである」

 

としており、離婚成立後は、過去の婚姻費用の問題は財産分与の問題として解決することもでき、それが相当である、と述べているのであり、過去の婚姻費用の問題は精算されたものとみなす、などという不合理なことを述べているわけではありませんでした。

 

 最高裁判所令和2年1月23日決定によれば、夫婦間で離婚が成立し、その時点で過去の婚姻関係の問題が解決していなかったとしても、離婚に先立ち婚姻費用分担調停・審判が申し立てられていたのであれば、なお離婚成立までの婚姻費用分担請求権は存続し、財産分与ではなく婚姻費用の問題として解決を求めることができる、ということになります。

 

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名古屋・伏見の弁護士 八木 俊行

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