コラム

123 【夫婦・親子の問題】子を連れて別居を開始することの法的問題

2023年02月14日

 民法上、夫婦は、同居し、互いに協力し、扶助しなければならない、とされています(民法752条)。

 そのため、夫婦は、互いに同居する義務を負うものと考えられていますが、別居に至ることもあります。夫婦間に子がいるならば、父母の別居によって、子は、父母のいずれか一方と別居することになります。

 自宅を出る側の親が、別居に際し、子を連れて行くこともあるでしょう。

 その結果、子と離れて暮らすことになる側の親が、子を連れ出した側の親(配偶者)の行為を許しがたいものと考える場合があることは、容易に想像できるところです。婚姻中の父母は、子に対する親権を共同で行うこととされていますので(民法818条3項)、例えば、子と離れて暮らすことになる親が、子を連れ出した側の親の行為は、親権を侵害している、と主張することは、法的に成り立ち得ることのように思われます。

  この問題について、裁判例を検討する機会がありました。自身の備忘を兼ね、その機会に確認した2つの裁判例について、簡潔に事案をご紹介します。

 

 <東京地方裁判所平成26年11月25日判決>

 妻(母)が、夫(父)に無断で、未就学の子を連れて自宅を出て、別居を開始した、という経緯に関し、夫(父)が、妻(母)を相手方として、不法行為に基づく損害賠償を請求した、というものです。

 東京地裁は、結論として、妻(母)に不法行為は成立しない、と判断しました。

 判決理由では、概要、次のようなことが述べられています。

○具体的事情のもとで、妻(母)が、子の監護について、夫(父)と協議を尽くす、あるいは、家裁の判断を求めてその判断がなされるまで別居を開始しないでいることは、必ずしも期待可能なこととは言えなかった。

○妻(母)が、夫(父)に無断で子を連れて別居を開始したことは、夫(父)の監護権を侵害するものとして、不法行為法上、違法であるとは直ちには言えない。

○妻(母)が、子を連れての別居をどのように実行したのか、についても、社会的相当性を逸脱するような態様であったとは認められない。

 

<東京地方裁判所令和4年3月28日判決>

 上記の裁判例と同じく、妻(母)が、夫(父)の同意なく、未就学の子を連れて自宅を出て、別居を開始した、という経緯に関し、夫(父)が、妻(母)を相手方として、不法行為に基づく損害賠償を請求した、というものです。

 東京地裁は、やはり、結論として、妻(母)に不法行為は成立しない、と判断しました。

 判決理由では、次のような判断基準が示され、これに事案における具体的事情を当てはめ、前記の結論が述べられています。

 「監護権を含む親権は、一次的には子の利益のためのものであって、親の心情や利益を保護することが第一目的でないことからすると、共同親権者の一方が、共同監護下にある子を同道して別居し、自らが子の単独監護者となったからといって、そのことのみから、監護をしていない親の親権を侵害したとして、直ちに上記同道行為をもって不法行為を構成するものと評価することは相当ではないし、実質的に見ても、両親が別居する場合の子の監護者については、別居前の共同監護の状況や、別居後の監護状況、共同親権者双方の意向を踏まえた面会交流の実施の可能性等を考慮して、最も重要な子の福祉にかなうか否かの視点が協議等によって定められるべきものである」

 「そうすると、共同親権者の一方が、子を同道して別居したことが不法行為を構成するか否かは、別居前後の監護状況の変化、別居に至る経緯、子の同道に至る経緯及び態様、別居後の子との交流に関する対応に加えて、家事調停手続や家事審判手続の内容などの諸般の事情を総合考慮して、子を同道した親権者が、専ら、その責に帰すべき事由によって、他方の親権者の親権を実質的に侵害したと解されるような場合に限られると解すべきである」

 

 

 上記の2例では、子を連れて別居を開始することの不法行為責任における違法性は認められませんでした。違法性を認めた裁判例が確認できましたら、追記したいと考えています。

 

弁護士 八木 俊行

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