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コラム
125 【相続問題】自筆証書遺言は全文PCで作成できるようになるのか?
2023年10月9日
遺言は、自分で作成する方法(自筆証書遺言)と公証人役場で作成してもらう方法(公正証書遺言)があります。
令和5年10月現在、自筆証書遺言は、原則として、遺言者が、全文と日付を自書し、署名捺印することが求められています(民法968条1項「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」)。
その趣旨は、その遺言が遺言者の意思に基づくものであることを明確化しておく点にあるものと考えられます。
なお、平成30年の民法改正により、自筆証書遺言に相続財産目録を添付する場合、「その目録については、自書することを要しない」(民法968条2項)ことととされました。
そのため、自筆証書遺言に相続財産目録を添付する場合、この目録に限り、PCなどの機器を利用して作成することが認められますが(ただし、目録の各ページに遺言者本人が署名捺印することを要します)、それ以外はやはり自書を要します。
令和5年10月2日の読売新聞朝刊1面に、「遺言書PCで作成可能」「法務省方針活用促進へ省力化」とのタイトルで記事がありました。
新聞記事によれば、「法務省が近く有識者会議を設け、民法を改正するための議論を本格化させる」、「法務省は現在の手書きに加え、パソコンやスマホなどを使った遺言書の作成を認める方針で、月内にも有識者会議を設置し、民法改正の具体的な内容を詰める」とのことですので、今後、法改正に向けた議論が始まるということのようです。
法改正が実現されるならば、もちろん自筆証書遺言の作成は容易になるのでしょうが、現行法が自筆証書遺言について全文自書を求めている理由である「遺言者の意思に基づくものであることを明確化する」という点に関しては、どのような対応がなされるのでしょうか。
自筆証書遺言について、令和2年7月10日から、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」による遺言書保管制度がスタートしています。
これは、一定要件を満たした自筆証書遺言について、遺言者の申請により遺言書保管所(法務局)で保管することとし、保管された遺言については、その旨の証明書が交付されることになり、自筆証書遺言について求められていた家庭裁判所での検認手続(民法1004条1項)は不要になる、などという制度です。
この制度を利用するためには、遺言者本人が遺言書保管所(法務局)に出頭して申請する必要があるものとされており、この際、本人確認がなされることになっています(法務局における遺言書の保管等に関する法律5条「遺言書保管官は、前条第一項の申請があった場合において、申請人に対し、法務省令で定めるところにより、当該申請人が本人であるかどうかの確認をするため、当該申請人を特定するために必要な氏名その他の法務省令で定める事項を示す書類の提示若しくは提出又はこれらの事項についての説明を求めるものとする。」)。
自筆証書遺言を全文PCで作成可能としたとしても、例えば、この遺言書保管制度のように、しかるべき機関が、遺言者の生前に本人確認を行うことにするならば、その遺言が遺言者の真意に基づくものであることを明確化しておくことは可能のようにも思われました。
どのような制度設計になるのか、今後の議論を注視したいと思います。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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