コラム

124 条例は長年の習慣を変えることができるのか?

2023年10月3日

 令和5年10月1日の読売新聞朝刊に、同日から、名古屋市で、エスカレーターでは立ち止まることを義務付ける条例が施行されるという記事がありました。

 「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」で、「利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの階段(人を乗せて昇降する部分をいう。)上に立ち止まらなければならない」(同条例8条)などと定められているようです。記事によれば、「条例は、市内の駅や商業施設などにある全てのエスカレーターが対象」とのことです。

 

 名古屋では、長年にわたり、エスカレーターを利用する際、立ち止まって利用するなら左側に乗り、右側は歩いて乗降する人のために空けておく、ということになっていました。この習慣の起源について考えたこともなかったのですが、前記の記事によれば、「片側空けの慣習は、1960年代後半に大阪で始まり、各地に広がった」のだとか。

 これに対し、この数年、エスカレーターは立ち止まって利用しよう、というルールが示されるようになっていました。名古屋市営地下鉄でも、このルールが駅構内に掲示されるなどしていました。

 ただ、現実社会はこのルールのとおりにはなっていませんでした。特に通勤・通学で混雑する時間帯では、右側で立ち止まることは急ぐ利用者を阻害するもので非常識、立ち止まるなら左側に乗るべきだ、という考え方が共有されていたように思います。

 私自身、急ぐ際に歩いて乗降することはありましたし、急いでいなくても、あえて右側に乗り、立ち止まるようなことはしていませんでした。

 長年の習慣を変えることは容易ではない、ということなのでしょう。

 

 名古屋市の条例に違反に対する罰則はない、ということですが、これが今後の当地における公的ルールであることに違いはありません。今後は長年の習慣を変えていかなければなりません。

 新しいルールに対し、現実社会はどのように推移するのでしょうか。罰則のない公的ルールの導入が長年の習慣にどのような影響を及ぼすのか、興味深いですね。

 

弁護士 八木 俊行

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