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コラム
106 「最高裁に告ぐ」(3)~読書~
2019年08月13日
先回からの続き
裁判官の選任過程に着目する限り、裁判所は、他の二権、ことに実質的な任命権者とも言える内閣の意向に真っ向から反するような判断を下すことは難しいのではないか?
そう考えるのは不自然ではないように思われますし、実態はそうではないとしても、外部からそのように見られてしまうこと自体、望ましいことではないはずです。
例えば、会社法上、株式会社の業務執行を行う取締役(代表取締役)の職務執行を監査するべき監査役は、株式会社の実質的所有者である株主(株主総会)が選任します(会社法329条1項、「役員」は「株主総会の決議によって選任する」)。監査役が、監査対象となるべき取締役(代表取締役)に選任されるようなことはありません。
一般的に、人は、自分を選任する権限を有する者の意向には逆らい難いと考えられることからすれば、監査役が取締役(代表取締役)に選任されるようではおよそ適切な監査は期待できない、と考えられることによるのでしょう。
また、取締役が、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するためには、監査役(2人以上存在する場合にはその過半数)の同意を要するとされています(会社法343条1項)。これも監査役の地位を取締役から守るためのものです。
それでもなお不十分であるとして、社外監査役の制度も存在します(「社外監査役」とは、過去10年間、その会社及び子会社の役員、あるいは使用人であったことがない、など一定要件を満たす監査役を指します。会社法2条16号)。
法律のあり方から、上位法である憲法のあり方について述べるのは不適当かもしれませんが、このような会社法の制度設計との比較で考えた場合、日本の裁判官の選任過程に全く問題がないと言い切れるでしょうか。
裁判所と国民の関係・距離の問題について、どのような制度が望ましいのか、私自身に明確な意見はありません。裁判所では、多数決原理では救済されなかった少数者の利益を守るため、国民による民主的統制が強く及ぶことは望ましくないのだ、とも言われます。
ただ、現在の制度が絶対的な正解というものでもないはずです。
裁判所が、名実共に三権の一角として、より独立した立場から判断を下すことを可能とするために、ひいてはより一層の国民の権利利益の保護のために、裁判所の基盤(民主的基盤)をより強いものとすることが検討されても良いのではないか。
仮に近い将来、憲法改正が議論されるならば、裁判所のあり方もテーマとされるべきではないか。
「最高裁に告ぐ」を読了して、そんなことも考えました。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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