コラム

107 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(1)

2019年08月14日

 相続・遺産分割に関連して「相続の放棄」という問題があります。 

 「相続の放棄」に関し、2019年8月10日付毎日新聞朝刊に令和元年(2019年)8月9日の最高裁判所判決に関し、「死亡した父が伯父の債務を引き継いでいることを3年後に知った子が、その時点で伯父からの相続を放棄できるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は9日、『債務の相続人になったと知ってから3か月以内であれば放棄できる』との初判断を示した。裁判官4人全員一致の判決」との記事が掲載されていました。

 そこで、「相続の放棄」について考えてみたいと思います。

 

 人は権利義務の主体ですから、人が死亡すれば、その人(被相続人)に帰属する権利義務(財産に対する権利や債務)の承継の問題が発生します。

 この問題に関し、民法は、被相続人が遺言を作成していればまずはそれに従うこと、遺言が存在しなければ、民法が定める一定範囲の相続人(法定相続人)に承継されることを定めています。

 

 もっとも、法定相続人にとって、被相続人の権利義務を承継することが常に望ましいとは限りません。

 被相続人にめぼしい資産がなく、債務のみが存在する、というなら、経済的に考えれば相続しない方が適切でしょう。また、被相続人に資産があったとしても、様々な事情から、相続人においてこれを承継するのをよしとしない場合もあるかもしれません。

 いずれにせよ、相続人の側に、被相続人の権利義務を相続によって承継するのか否かの選択権が与えられてしかるべきです。

 

 「相続の放棄」は、相続人に与えられた選択権と言えます。民法は次のとおり定めます。

 

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条
1 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

(相続の放棄の方式)
第938条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)
第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

 

 つまり、相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすることで、最初から相続人ではなかったことになります。

 この3か月は、具体的にはいつまでなのでしょうか。

続く

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
名古屋市中区錦2丁目8番23号
キタムラビル401号
(地下鉄伏見駅1番出口・丸の内駅6番出口各徒歩約2分)
法律相談のお申し込みは