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コラム
105 「いじめ」と不法行為責任(5)
2019年08月11日
先回からの続き
(共同不法行為と結果の間の因果関係)
判決は、次のように述べ、A1とB1の共同不法行為とXの自殺との因果関係も認めました。
「被告A1及び被告B1の(中略)の亡Xに対する加害行為は、一連の行為の積み重ねにより、亡Xに対し、希死念慮を抱かせるに足りる程度の孤立感・無価値感を形成させ、さらに,被告少年らとの関係からの離脱が困難であるとの無力感・絶望感を形成させるに十分なものであり、そのような心理状態に至った者が自殺に及ぶことは、一般に予見可能な事態であるといえるから、亡Xの自殺は通常損害に含まれるというべきである。したがって、被告A1及び被告B1の加害行為と亡Xの自殺との間には相当因果関係が認められる」(判決から引用)
(生徒らの父母の法的責任)
A1とB1の父母の法的責任は否定されました。
判決は、A1とB1は「加害行為当時、中学校2年生であり、前記認定事実に係る同人らの言動を踏まえても、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかった(民法712条)とは認められない」(判決から引用)ことから、保護者の責任を民法712条の適用により論じることはできないとし、法の一般原則に従い、次のように述べて、各人の父母自身に監督義務違反があり、その監督義務違反と未成年者の不法行為によって生じた損害との間に相当因果関係が認められるか否かを検討しました。
「被告A1の監督義務者である被告A2及び被告A3並びに被告B1の監督義務者である被告B2に監督義務違反があり(中略)、これと未成年者の不法行為によって生じた損害との間に相当因果関係を認め得るときには、上記監督義務者らが民法709条に基づき損害賠償責任を負うが、その監督義務違反は民法820条所定の日常的な監督義務の違反では足りず、具体的な結果との関係で、これを回避すべき監督義務の違反が認められる必要があると解される」(判決から引用)
その上で、各人の父母については監督義務違反が認められない、との判断を示しました。
繰り返しになりますが、いじめと呼ばれる児童・生徒間のやり取りは、法律問題でもあります。すなわち、加害者側に民事・刑事問わず、重大な法的責任が生じ得るものにほかなりません。
大津地裁平成31年2月19日判決は、加害者とされた生徒らに、民事上の不法行為責任(損害賠償責任)を肯定したわけですが、その理由となる部分は、広く、いじめと呼ばれる問題に妥当するもののように思われます。このことは広く社会に知られるべきです。
この問題に関し、教員に、さらなる役割分担を求めることは現実的には困難な面も多々あるのでしょう。かねて、学校現場における教員の負担が過重なものとなっていることが社会問題として報じられているところでもあります。
そうしますと、児童・生徒の側に、「自衛」が求められるのかも知れません。
この問題を、法律問題として扱うためには、事実関係を裏付ける証拠が必要となります。
音声録音できるICレコーダーや、動画撮影のできるカメラなど、現場の状況を容易かつ正確に保存できる電子機器が普及しています。今後、より一層、これらによる証拠保存が重要となるのでしょう。
このような証拠保存方法の簡便化の傾向に加え、統計上、膨大な件数のいじめが存在すること、市民の権利意識はますます高まっていくと考えられることなどからすれば、今後、いじめと呼ばれる問題に対して法律が適用され、裁判所の手続を通じて解決される機会も増えるものと予想します。
そのことは、いじめに対する抑止力となるはずです。
そのためにも、まず、いじめは法律問題でもあることや、いじめを法律問題として適切に解決するためには何がポイントとなるのか、といった点が、広く市民に周知される必要があるのではないでしょうか。
(追記:2019年8月12日)
コラム記載後、大津地裁平成31年2月19日判決で問題となった事件について知りたいと思い、「大津中2いじめ自殺 学校はなぜ目を背けたのか」(共同通信大阪社会部著、2013年4月1日第1版発行)を読了しました。
事件発生に至る経緯、事件発生後の中学校や教育委員会側の対応に問題はなかったのか、事件の背景にどのような問題があったのか、どうすれば防げるのか。そのようなテーマを内容とする新書です。
末尾には、事件後、中学校の生徒を対象に実施されたアンケートに対する回答(自由記述欄)の一部が掲載されています。その中学校には、良識ある心優しい生徒も多数いたことがうかがわれます。
この問題の難しさなど、色々と考えさせられる良書と思いました。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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