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コラム
56 結婚と離婚の法律問題(14) 婚姻の効力・夫婦間の契約取消権
2019年04月14日
先回からの続き
⑤夫婦間の契約取消権
夫婦間で締結した契約は、取り消すことができます。民法第754条は次のように定めています。
(夫婦間の契約の取消権)
民法第754条
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
その趣旨は、夫婦間では真意を確保することが困難であるから、あるいは、夫婦間で締結された契約は任意に履行されるべきでものであって、訴訟手続などの法的手続で解決されるべきではないし、法的手続は家庭の平穏を害するので避けるべきであるから、などと説明されています。
したがって、夫Aが妻Bに対して、1000万円を贈与することを約束したとすれば、それは法的には贈与契約と評価されるべきものですが、Aは、Bとの婚姻期間中、いつでもこの贈与契約を取り消し、1000万円の支払いを免れることができる、ということになります。
同条に基づく取り消しの対象となるのは夫婦が婚姻後に締結した契約に限られ、婚姻前に締結した契約は対象外である、と考えられています。
では、夫婦が婚姻後に締結した契約は、すべて民法第754条に基づく取り消しの対象となるのでしょうか。
まず、一般的に、意思表示に瑕疵がある場合、その意思表示を取り消すことができる、とされており、このような取消権には権利行使可能な期間として消滅時効の定めがあります(民法第126条。追認可能な時から5年、行為時から20年)。
しかしながら、民法第754条に基づく取消権は、これとは異なるものであり、消滅時効に関する民法第126条も適用されないと考えられます。
そうしますと、婚姻が継続する限り、過去に夫婦間で締結した契約は、時間の経過を問わず取り消すことができる、という結論となりそうですが、明文の定めはないものの、契約締結からあまりに長時間経過後に民法第754条に基づく取消権を行使するとすれば、具体的事情によっては、権利濫用として取消権行使は制限される、と考えられています。
また、取消権の行使可能な時期について、最高裁判所昭和42年2月2日判決は、次のとおり判断を示しています。
「民法七五四条にいう『婚姻中』とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続しているとしても、同条の規定により、夫婦間の契約を取り消すことは許されないものと解するのが相当である」
したがって、いまだ離婚は成立しておらず法的な婚姻関係が継続していたとしても、すでに婚姻関係が実質的に破綻している場合には、民法754条に基づく取消権は行使できません。
前記の例では、AB夫妻がすでに別居しているなど婚姻関係が実質的に破綻していると評価できる状況に至っているならば、夫Aは、もはや妻Bとの間の贈与契約を民法754条に基づいて取り消すことはできない、ということになります。
夫婦間で締結した契約について事後的な取り消しが問題となるのは、夫婦関係が変化し、何らかの意味で円満ではなくなったような場合に多いのでしょう。
しかしながら、円満ではなくなった夫婦関係が、実質的に破綻していると評価されるまでに至っているならば、もはやそれまでに夫婦間で締結した契約を取り消すことはできないと判断される可能性が高い、ということです。
夫婦関係は特殊な人間関係であり、客観的に見れば不合理な契約を締結してしまうということはままあるように思われます。
そのような場合において、民法第754条は、問題解決の切り口となり得る定めと言えるでしょう。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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