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コラム
30 待ち続けた結果は権利消滅(3)~債権回収の話7~
2014年07月7日
(前回の続き)
ある債権につき、所定の時効起算点から、所定の消滅時効期間が経過したものの、なお、債権者が債務者に対して権利行使できる場合があるでしょうか。
時効制度には「時効の中断」という制度があります。
時効の中断とは、それまで進行していた時効期間が振り出しに戻る、という制度です(民法第157条1項)。
「中断」という日本語から、進行してきた時効が中断事由が生じた時点で一時的に停止し、その事由がなくなれば、進行を再開する、というイメージを抱く方もおみえかもしれませんが、そうではありません。ちなみに時効進行の「一時停止」を生じさせる制度としては、別途、「時効の停止」があります(民法第158条~第161条)。
どのような場合に時効は中断するのでしょうか。民法第147条は時効中断事由として次の3つを定めます。
(民法第147条)
時効は次に掲げる事由によって中断する。
1 請求
2 差押さえ、仮差し押さえ又は仮処分
3 承認
消滅時効との関係で中断事由として重要と思われるのは、民法第147条第1号「請求」と第3号「承認」です。
ここでいう「請求」とは、裁判上の請求、つまり裁判所に訴えを提起することです。よく知られていることですが、裁判外の請求(例えば、債権者から債務者に対して電話をかけたり、手紙を送るなどして支払いを求めること)は、時効中断事由たる「請求」には該当しません。これは「催告」(民法第153条)といい、催告時から6か月間、消滅時効の完成を阻止することができるという暫定的な効力が認められるにとどまりますので注意が必要です。
「承認」とは、債務者が債権者に対して権利の存在を認めることです。ちなみにこの点に関しては、債務者のある行為が「承認」に該当するのかが問題となった裁判例が多数存在します。消滅時効が重大な効果を伴うだけに、裁判でも深刻な争いとなってきたわけです。また、機会を改めて、検討したいと思います。
したがいまして、前々回のコラムの事例では、Aさんにおいて、平成26年5月20日よりも前に、Bさんを被告として、裁判所に貸金の返還を求める訴えを起こしていた(「請求」)、あるいは、平成26年5月20日よりも前に、BさんがAさんに対して、100万円を返す義務があることを認めていた(「承認」)、という事情が存在する場合、平成26年5月21日以降であっても、AさんのBさんに対する債権は消滅時効が完成しておらず、支払いを求めることができる、という例外的な結論に至ることになります。
なお、平成26年5月21日以降に、BさんがAさんに対して100万円を返す義務を認めた場合にも、AさんのBさんに対する権利行使が認められることとなる、と考えられます。
この場合、消滅時効完成後に権利者たるAさんに消滅時効を主張しないかのような態度を示したBさんは、もはや信義則上、消滅時効の主張を持ち出すことが許されないと考えられるためです(「消滅時効援用権の喪失」、民法に明文規定はありませんが、最高裁判例により認められています)。(続く)
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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