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コラム
3 「半沢直樹」のように?~債権回収の話1~
2013年09月27日
TBSドラマ「半沢直樹」を見ました。
当初は関心がなかったのですが、妻に勧められ録画分を見たことをきっかけに、結局全10話、逃すことなくしっかりと見てしまいました。
前半では、主人公・半沢の勤める銀行が、回収不能と思われた5億円の回収に成功していましたね。
ドラマのことながら、主人公の努力が報われ、うれしく思いましたが、あの場面には少々疑問を感じました。
すでに記憶もあいまいなのですが、設定としては、主人公が勤務する銀行がある法人に5億円を融資し代表者が連帯保証していた、その後に法人が破綻、5億円を回収するため代表者個人の財産を調査したところ、とある銀行に代表者個人の隠し預金を発見し、ここから回収、というようなことであったと思います。
しかし、現実にはそうはいかないのではないでしょうか。
まず、債務者が任意に履行しない場合に債権回収を図るための方法として、債務者名義の財産に強制執行をかける(平たく言えば、債務者の意思とは無関係にその財産を現金化して回収する、ということです)ことが考えられますが、そのためには、その債権についてあらかじめ公正証書を作成しておく、あるいは事後的に裁判所の認容判決を取得するなどの方法により「執行力」を備える必要があります。
いかに社会的に信用ある銀行といえども法律的には私人に過ぎず、銀行が作成した契約書だけでは強制執行はできないのです。
ですが、ドラマでは、銀行の法人代表者に対する債権に関して、あらかじめ公正証書が作成されているようには見えませんでしたし、問題が発覚してから裁判所の判決を取得したようにも見えませんでした。
そうすると、そもそも銀行は法人代表者の隠し財産を発見できたとしても強制執行できない、ということになるはずで、まず、この点がよくわかりませんでした。
仮に銀行の債権に「執行力」が具備されていたとしても、なお疑問があります。
ドラマでは、銀行とは別に国税庁も法人代表者の財産を調査していました。つまり、国税庁としても、法人代表者に税金の不払いがあるため、その財産から回収しようとしていたということだと考えられます(ちなみに私債権と異なり、国税庁が有する債権=租税債権は当然に執行力を有していますので、国税庁は法人代表者の財産を発見すればここから回収を図ることができた、という状況でした)。
そして、銀行等の私人の債権と国税庁の租税債権が一人の債務者の預金に競合した場合(つまり差押えが競合した場合)、租税債権が優先し、国税庁が先に回収できるのが大原則です。
それにも関わらず、銀行が国税庁に優先するとすれば、現時点で私には二つの場合しか考えが浮かびません。
一つは、銀行が差押対象財産たる法人代表者の預金に質権(債権質)などの担保物権を有している場合(厳密には、担保物権の対抗要件が、競合する租税債権の納期限よりも先に具備されていることが必要です)、もう一つは銀行による強制執行手続の開始に国税庁が気付かず、そのまま銀行が回収できた場合です。
ですが、ドラマでは前者の可能性はありません。そもそも銀行は法人代表者の隠し預金の存在を知らなかったのです。
また、後者についても、銀行が強制執行手続を通じて債権回収を図るためには、少なくとも、裁判所による強制執行手続が開始してから10日程度は必要と考えられますが、ドラマではそれだけの時間が経過したようには見えませんでした。
このようなことから、銀行が国税庁に優先して債権回収できた理由も、よく分かりませんでした。
さらに、私の記憶違いかもしれませんが、ドラマでは、法人代表者個人についても裁判所で破産手続が開始されていたようにも思います。
債務者につき破産手続が開始された場合、債権者は、もはや強制執行により債権回収を図ることはできません(ただし債権者が有する担保物権に基づくものは除く。住宅ローン債務者が破産した場合、当然、銀行は債務者宅に設定済みの抵当権を実行します)。
なぜなら、破産手続とは、支払不能に陥った債務者の財産を債権者に公平に分配して清算する制度であり、個別の債権者が抜け駆け的に回収することは許されないからです。
もし、各債権者が早い者勝ちで債権回収することが許されるとすれば、破産手続にて総債権者に公平に分配されるべき財産などなくなってしまい、破産手続はもはや制度として成り立たないでしょう。
銀行が破産手続の開始した法人代表者の財産に強制執行をかけることができた理由も、よく分かりませんでした。
このように、強制執行による債権回収には次のような特徴があります。
①着手前に相応の準備が必要であること
②現実の金銭回収には着手からある程度の時間を要すること
③債務者が税金を滞納しているとすれば、基本的に税金の回収が優先すること
④債務者が破産すれば、基本的に強制執行はできないこと
いずれも重要なポイントであり、現実に、ドラマ「半沢直樹」のように強制執行による債権回収を実りあるものとするためには、債務者の支払いが滞る前からこれらの点を抑えておくことが必要です。
債権回収に関する問題は、また機会を改めて書きたいと思います。
(本コラムに記載した内容は、私の記憶違いや誤解によるものかもしれません。その場合には、改めて訂正、削除等させていただきます)
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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