コラム

69 平成29年民法改正(2) 消滅時効が変わる①

2019年05月8日

先回の続き

 平成29年の民法改正により、これまでには存在しなかった新しいルールが創設されました。その一環として、「時効」についても様々な改正が行われました。 

 中でも重要と思われるものに消滅時効に関する改正が挙げられます。

 

 消滅時効とは、一定期間の経過によって権利が消滅する、というものであり、この問題を考える上では、消滅時効期間の起算点はいつであるのか、消滅時効期間はどの程度の長さであるのか、といった点が重要です。

 改正前民法では、民事債権(「AはBに対して一定金額の支払いを請求できる」というように、ある人がある人に対して何ごとかを請求する権利を「債権」といいます)は、「権利を行使することができる時」を起算点として、10年間の経過によって消滅時効が完成する、とされていました(改正前民法166条、167条1項)。

 また、これを前提として、民法の特別法である商法によって、商事債権(商行為から生じた債権)は、特別に5年間の消滅時効期間が定められていました(改正前商法522条)。 

 

 平成29年民法改正により、民事債権の消滅時効は、次のようになりました。
①民事債権は、「債権者が権利行使できることを知った時」を起算点として5年間の経過によって消滅時効が完成する
②また、民事債権は、「権利を行使することができる時」を起算点として10年間の経過によっても消滅時効が完成する

 

 法改正の一環として商事債権に関する消滅時効期間を定めた商法522条は削除されましたので、今後は、債権の消滅時効の問題は、民事債権・商事債権の区別なく、原則として上記ルールに従って規律されることになります。 

 なお、改正前民法では、権利の性質に着目して1年~3年の短期消滅時効を定める条文が存在しましたが(改正前民法170条~174条)、法改正の一環として各条文は削除され、短期消滅時効の制度はなくなりました。 

 

 改正の特色は2点指摘できます。 

 まず、時効期間の起算点に関して、これまでは「権利を行使できる時」(改正前民法166条1項)というように、権利の客観的状況に着目した起算点(客観的起算点)が定められていたわけですが、これに加え、「債権者が権利を行使できることを知った時」という、権利者の認識に着目した起算点(主観的起算点)が新設されました。 

 また、消滅時効期間に関し、民事債権全般について、主観的起算点から「5年間」という短期の消滅時効期間が定められました。

 

 以上の法改正は、権利者が、権利行使が可能であることを認識しているならば権利を行使するべきであって、それをせず漫然と放置し、5年間が経過したならば、その権利が時効によって消滅するとしてもやむを得ない、との価値判断に基づくものと言えます。

 改正によって、債権者にとっては債権を喪失しやすくなり、債務者にとっては債務を免れやすくなる、と言えるのでしょう。いずれの立場からも、ルールの変更には十分に留意する必要があります。

※平成29年改正民法は2020年(令和2年)4月1日から施行されることが決まっています。2019年5月現在、なお改正前民法が施行されています。

続く

弁護士 八木 俊行

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