コラム

68 刑事事件と被疑者の身柄拘束~逮捕・勾留は懲罰か~②

2019年04月29日

先回からの続き

 このような刑事訴訟法や刑事訴訟規則の定めから、逮捕や勾留といった身柄拘束は、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが認められる場合にのみ許容されることが理解できます。

 したがって、ある者が犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由(「身柄拘束の理由」)が認められるとしても、被疑者に関する事情や被疑事実に関する事情などの諸事情からすると、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれは認められない、というならば、「身柄拘束の必要性」は認められないため、裁判所は逮捕状・勾留状を交付できず、捜査機関は被疑者の身柄を拘束することはできない、ということになります。

 このような場合、捜査機関は、被疑者の身柄を拘束せぬまま捜査を続行し、最終的に、その被疑事実について起訴するか否かが判断される、という経過をたどることになります。

 例えば、自動車の運転を誤って交通事故を起こし、第三者を負傷させることは、刑法犯たる自動車運転過失致傷罪にあたり得るわけですが、諸事情を考慮して、被疑者(事故を起こした運転手)を身柄拘束しないままに捜査が継続される、という例は多いと言えるでしょう。

 

 捜査段階における被疑者の身柄拘束は、それが実施されれば、被疑者は様々な不利益を受けることになりますから、もちろん懲罰的な要素があることは否定できません。しかしながら、被疑者に懲罰を与えること自体を目的として身柄拘束を行うことは許されません。

 また、身柄拘束された被疑者は、捜査機関の監視下に置かれ、事実上、取り調べがスムーズとなることは明かですが、被疑者の取り調べをスムーズに行うこと自体を目的として身柄拘束を行うこともまた許されない、と考えられています。

 すなわち、被疑者に懲罰を与える、あるいは捜査の都合上、被疑者の取り調べをスムーズに行わなければならない、といった事情は、「身柄拘束の必要性」を基礎付けるものではありません。

 

 憲法14条所定の法の下の平等を持ち出すまでもなく、ある刑事事件における被疑者に対する処遇は、他の同種事件との均衡が図られるべきことは極めて重要であり、不公平な取扱いがなされてはならないことは当然です。

 しかしながら、そもそも刑事事件において被疑者の身柄拘束が許容されるのは、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが認められる場合に限られるということ、「悪いことをすると警察に逮捕される」のは、より正確には、法律が定める一定要件を満たす場合に限られるということは、広く知られるべきではないでしょうか。

 

弁護士 八木 俊行

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