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コラム
59 平成30年民法改正(1) 自筆証書遺言の方式緩和
2019年04月17日
死後の財産処分のあり方を定める方法の一つとして、遺言(いごん)を作成することが考えられます。
遺言には、一般的になじみのあるものとしては、遺言者が自筆で作成する「自筆証書遺言」と、公証人役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」があります。
このうち自筆証書遺言は、作成方式が厳格に定められ、遺言者が、全文、日付、氏名を自書し、押印せねばならないとされていましたので、これまでは、たとえ一部であっても、例えばパソコンなどで作成することはできませんでした(▷コラム2「遺言(遺書)は形式も重要です」)。
平成30年7月に、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。これらは民法のうち相続に関する定めを改正するものですが、この機会に自筆証書遺言の作成方式に関し、自筆証書遺言に「遺産の目録」を添付する場合、その目録に関しては自書しなくてもよい、というように緩和されました。
改正法に従い自筆証書遺言を作成する場合、遺産目録は、遺言者が、目録の「毎葉」に署名・捺印することが求められます。なお、1枚の用紙の両面に自筆によらない目録の記載がある場合には、両面に署名捺印することが求められます。
参考までに、改正前後の条文を記載します。
(平成30年改正前)
民法第968条 自筆証書遺言によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(平成30年改正後) ※改正部分を青字で示します。
民法第968条 自筆証書遺言によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
遺言は、作成者である遺言者の死後に効力が生じるものです。効力が生じる時点で作成者はおらず、遺言の内容は、遺言の文言から判断せざるを得ません。遺言で処分対象とされた財産が、文言上いずれを指すのか判読できない、というのでは、それ自体が新たな紛争の原因となってしまいますから、遺産目録に記載する財産に関しては、他の財産と識別できる程度に特定するに足る事項を記載する必要があります。また、遺言をもって遺産たる不動産の登記名義を変更することもありますから、法務局での登記手続で求められる程度の事項を記載する必要もあります。
このように、遺産目録作成には、ある程度の緻密さが求められます。自書による作成が容易ではない場合もあるでしょう。
例えばパソコンで遺産目録を作成できるならば、作業は比較的容易となると共に、より精度が高く、後日紛争が生じにくい遺言が作成されることになるのではないでしょうか。
平成25年のコラムで、遺言はあまり作成されていないということを記載しました(▷コラム2「遺言(遺書)は形式も重要です」)。裁判所が公開する司法統計によれば、平成29年度の自筆証書遺言の検認件数は1万7394件であったということです。作成された自筆証書遺言の全てが家庭裁判所の検認手続に至る、というわけでもないでしょうが、遺言はあまり利用されていないという状況に大きな変化はないように思われます。
自筆証書遺言の方式緩和に関する法改正の背景にも、遺言があまり利用されていない状況を改善する必要がある、という問題意識があったようですが、法改正により、遺言の利用は増えるのでしょうか。
なお、法改正のうち自筆証書遺言の方式緩和に関する規定は、すでに平成31年1月13日から施行されています。ただし、改正法附則により、施行日(平成31年1月13日)以前に作成された自筆証書遺言には旧法が適用されますので、留意する必要があります。
続く
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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