コラム

28 取り調べの可視化~刑事弁護の話1~

2014年06月25日

 弁護士が対応する法律問題の一分野として、刑事事件における被疑者、被告人の弁護(刑事弁護)があります。
  今朝の新聞報道を踏まえ、刑事弁護にも関係する「取り調べの可視化」について書きたいと思います。

 

 刑事事件も、民事事件と同じように、争いのある事実は証拠によって証明することが求められます。つまり、犯罪事実が証拠によって証明されて、初めて国家による刑罰権行使が認められるわけです。
  被疑者、被告人による自らの犯罪事実を認める旨の供述を「自白」といいますが、これは有力な証拠となるため、捜査機関側には被疑者の自白を得ようとのインセンティブが働くことになります。
 もっとも、例えば拷問の結果によるものなど任意にされたものではない疑いのある自白は犯罪事実立証のための証拠とすることはできない、とされています(刑事訴訟法第319条1項)。
  自白の任意性に疑いがあるかどうかを判断するのも
裁判所です。そこで、被告人が自白の任意性を争う場合には、法廷で、その被告人の取り調べを担当した警察官、あるいは検察官から事情を確認することになります。
 しかしながら、そもそも取り調べの状況をあらかじめ録画しておけばそのようなことは省略できますし、裁判官としても、複数の取り調べ関係者からあれこれ話を聞くよりも、当時の映像を見た方が自白がどのような状況下でなされたものなのかよくわかるはずです。
 そのようなことで、近時、捜査機関によって、被疑者の取り調べ状況を録画する、という取り組みが行われています。もっとも、現時点では、これは法律によって定められたものではなく、あくまで検察庁による自主的な取り組みという位置付けにとどまります。裁判員裁判対象事件(基本的には、法定刑に死刑、無期懲役等を含む重大犯罪に限られます。裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条1項)については検察庁での取り調べについて録画している、とも聞きますが、裁判員裁判対象事件は刑事事件全体のごく一部ですし、また、裁判員裁判対象事件であっても警察での取り調べは可視化されていません。可視化の取り組みは始まったばかりであり、いまだ試行段階という状況です(最近、法務省の法制審議会が取り調べの可視化を法制化することを検討している旨の報道がありました。もっとも、この審議会案でも対象事件は限定されています)。 

 

 今朝の新聞報道によれば、現職の美濃加茂市長が受託収賄、事前収賄、あっせん利得処罰法違反の疑いで逮捕されたとのことです。昨日の新聞報道では、警察が市長から事情聴取することになった、という程度でしたから、展開の早さに驚きました。贈賄の疑いのある業者が市長に現金を渡した旨の供述をしており、これが立件の端緒となったようです。
 大変重要なことですが、ご本人は業者から現金を受領した事実を否認されているとのことです。賄賂の金額は30万円程度とのことで、私としては、現職市長が、現在の立場のみならず政治家としての将来まで失うことの対価としてはあまりに低額なのではないかと強い違和感を覚えました。
 この事件では、当面、そもそも市長が業者から現金を受領したと認められるのかが争点となるものと思われます。被疑事実の詳細は不明であり、捜査機関がどの程度の証拠を保有するのかも当然ながら不明ですが、現金の受け渡し方法が銀行振込でなく、領収書もないとすれば、証拠としては当事者の供述くらいしかなく、それ以外の手段で証明することは難しいのではないでしょうか。
 そうすると、やはり捜査機関には身柄拘束後の取り調べにより市長の自白を得ようというインセンティブが働くことになります。そして、自白が決定的な証拠となる可能性があるこのような事件こそ、取り調べを最初から最後まで録画するべきではないでしょうか。
 しかしながら、私が目にした新聞記事からはそのような問題意識は感じられず、とても残念でした。

(2014.6.25)

 本日6月27日付新聞報道によると、名古屋地検は逮捕翌日の6月25日から市長の取り調べの録音、録画を始めていたとのことでしたので、追記致します。(2014.6.27)