コラム

72 平成29年民法改正(2) 消滅時効が変わる④

2019年05月12日

先回からの続き

 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効について、もう一点、改正された部分があります。

 かねて不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為の時から20年間が経過すれば消滅する、とされていました(改正前民法724条)。

 そして、この20年間は、「消滅時効期間」を定めたものではなく、それとは異なる「権利の除斥期間」を定めたものである、と考えられていました。

 「権利の除斥期間」とは、一定期間の経過によって権利が当然に消滅する、というものです。

 そのため、かねて、不法行為に基づく損害賠償請求権における「20年間」に関しては、消滅時効の場合と異なり、時効の中断(一定事由が生じた場合に、時効期間の起算をゼロへ戻すという制度)は適用されず、時効の援用(債務者などの利害関係人が、消滅時効完成による利益を享受する旨の意思表示をすることで、債務消滅の効果が生じるという制度)も無関係であるため、例えば、債務者が援用権を放棄することで権利が存続する、といった余地もなく、期間の経過によって絶対的に権利は消滅すると考えられていました。

 

 一般的には、不法行為の時から20年間、という期間は十分な長さであり、この間に債権者(被害者)による権利行使を求めることは酷ではない、と考えられるのでしょう。ただ、中には、債務者(加害者)による行為から相当期間が経過してから被害(損害)が明らかとなる場合もあります。そのため、不法行為に基づく損害賠償請求権全てについて、20年間の経過をもって、除斥期間の経過により権利は絶対的に消滅した、と形式的に処理することはおよそ正義に反すると考えられる場合もあります。

 そのため、判例上も、この20年間の性質を除斥期間と把握した上で、なお、消滅時効期間の起算点を遅らせる(最高裁平成16年4月27日判決)、一定期間は除斥期間による権利消滅の効果が生じないと考える(最高裁平成21年4月28日判決)などすることで、例外的な処理がなされるケースが存在しました。

 もっとも、このような例外的扱いが許容されるとするならば、不法行為に基づく損害賠償請求権における20年間を、消滅時効とは異なる「権利の除斥期間」と把握することに合理性があるのか、そのことと整合性があるのかが問題となります。

 

 このような経緯において、平成29年民法改正によって、不法行為に基づく損害賠償請求権における20年間の定めは、権利の除斥期間から消滅時効へと改正されました(改正後民法724条)。

 したがって、今後は、不法行為時から20年間のうちに債務者(加害者)が債務を承認すれば、時効期間の起算はゼロへと戻る、ということになりますし、20年間が経過したとしても債務者(加害者)が消滅時効を援用しない、あるいは、援用権を放棄したと考えられる事情が存在するといった場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権はなお存続し続ける、ということになります。

続く

弁護士 八木 俊行

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