コラム

71 平成29年民法改正(2) 消滅時効が変わる③

2019年05月10日

先回からの続き

 「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」の原則的な消滅時効期間が5年間へと延長された点は、実務上大きな意味があるように思われます。 

 例えば、交通事故によって被害者が負傷した場合、被害者から加害者に対する損害賠償請求が問題となりますが、この場合に被害者が有することになる権利は、まさにこのような類型の債権に該当します。

 改正前民法では、このような債権について、一般的な不法行為に基づく損害賠償請求権と同じく、3年間の消滅時効期間が定められていました。
 そして、その起算点は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」とされ(改正前民法724条)、多くの交通事故において、事故直後にそのような状態となり、直ちに消滅時効期間の起算が開始すると考えられました。
 事故による負傷は、時に長期化し、事故後、直ちに被害者が権利行使することができない場合もありますから、このような場合においては、3年間の経過による消滅時効完成の問題を回避するため、被害者がなお治療を継続中であるにも関わらず、予防的に時効中断措置をとらざるを得ないといったケースもあったのではないでしょうか。

 しかしながら、消滅時効期間が3年間から5年間へと延長されることで、このような問題もある程度解消されるものと考えられます。

 

 このような消滅時効に関する改正法はいつから適用されるのでしょうか。

 まず、平成29年改正民法は2020年(令和2年)4月1日から施行されることが決まっています。
 そして、消滅時効との関連では、施行日前に債権が生じた場合は旧法が適用され、施行日後に債権が生じた場合は新法が適用されるとされています(改正法附則10条「時効に関する経過措置」)。

 したがって、原則的には、2020年4月1日以降に発生した債権については、改正法が適用されることになります。

 

 もっとも、附則には、その他にも経過措置に関する重要な規定があります。以下では2点を補足します。

 まず、契約等の法律行為によって債権が生じた場合においては、「その原因となる法律行為」がなされた時点こそが改正法適用の基準時となる、とされています(改正法附則10条1項)。
 したがって、例えば、売買契約に基づく代金債権の消滅時効について、いずれの法が適用されるのかは、原因となる法律行為、すなわち売買契約締結時を基準に判断することになります。

  また、「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権」の消滅時効期間を5年間とする改正に関しては、改正法の施行日(2020年4月1日)の時点で消滅時効が既に完成していた場合でなければ新法が適用される、とされています(改正法附則35条2項)。
 したがって、例えば、交通事故に基づく損害賠償請求権を考えると、交通事故(不法行為)自体が改正法施行前に発生していたとしても、改正法が適用され、時効期間が延長される場合がある、ということになります。

続く

弁護士 八木 俊行

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