コラム

51 結婚と離婚の法律問題(10) 婚姻の効力・貞操義務

2019年04月2日

先回からの続き

④貞操義務

 夫婦は、互いに貞操義務、すなわち「配偶者以外の者と性的な関係を持ってはならない義務」を負います。民法上の明文はありませんが、当然のことと考えられています。

 したがって、配偶者のある者が、配偶者以外の異性と性的関係を持つことは貞操義務違反と評価されます。
 では、それによってどのような効果が生じるでしょうか。甲と乙が夫婦であり、乙が第三者Aと性的関係を持ち、そのことを甲が知るに至った、というケースを考えてみましょう。

 

 まず、甲は、乙の貞操義務違反により精神的苦痛を受けたと考えられますので、乙を相手方として、慰謝料の支払いを請求できるでしょう(損害賠償請求)。

 このケースにおいて、甲の精神的苦痛という損害は、乙とAの2人の行為によるもの(共同不法行為)と評価できますから、乙のみならずAを相手方として、慰謝料の支払いを請求できる、と考えられます(損害賠償請求)。
 なお、この点に関連して、最高裁判所昭和54年3月30日判決は次のとおり述べています。

 「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰藉すべき義務がある」

 

 また、配偶者の不貞行為は、損害賠償という金銭的な問題にとどまらず、夫婦関係の存続にも重大な影響を及ぼします。

 婚姻は、契約のようなものですから、一方当事者の意思により解消することはできず、双方の合意がある場合にのみ解消できるのが原則です(協議離婚。民法第763条「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」)。

 しかしながら、民法は、一定の事由が存在する場合には、一方の配偶者の意思のみで(すなわち、他方配偶者が合意しなくとも)、離婚が成立する旨も定めています。民法第770条は、そのような事由を定めているところ、その一つに「配偶者に不貞な行為があったとき」があります。

 したがって、前記事例において、甲は、乙の不貞行為を理由として、乙を相手方として離婚を請求することができるでしょう。

 一方配偶者からの離婚請求が意味を持つのは、他方配偶者が離婚に応じない場合ですから(双方が合意するなら「協議離婚」です)、このような場合、突き詰めれば訴訟手続を通じて解決が図られる、ということになります(「協議離婚」の対概念として、裁判所の判決による離婚を「裁判離婚」と言います)。

 

 このように、貞操義務違反(不貞行為)は、損害賠償という金銭的問題となり得ますし、さらには離婚という婚姻関係自体の解消の問題となり得ます。前者の金銭的問題について、何点か補足します。

続く

弁護士 八木 俊行

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