コラム

79 2019年5月民事執行法改正② 直接強制によって子の引渡請求を実現できることが明らかに

2019年06月5日

先回からの続き

 2019年5月10日に成立した改正民事執行法の要点は、3点あるように思われます。

 

 1点目は、不動産競売から暴力団関係者を排除するための制度が新設された、という点です。

 すなわち、不動産の買い受けの申出に際し、申出人(あるいは申出人の背後にいて資金を提供するなどしている者)が暴力団関係者でないことについて説明しなければならない(改正民事執行法65条の2)、また、裁判所は、最高価買受申出人(あるいは申出人の背後にいて資金を提供するなどしている者)が暴力団関係者に該当するかの調査を警察に対して嘱託しなければならない(改正民事執行法68条の4)、などとされました。

 改正の経緯について詳細は把握しませんが、近年、取引関係からの暴力団排除の傾向は顕著であり、私人間の契約書においてもこの点を明記することが一般的となっていることからすれば、裁判所における不動産競売手続についても規制がなされたことは、自然な流れのように思われます。

 

 

 2点目は、子の引き渡しを実現するための執行方法として、直接強制の方法を選択できることが明確化された、という点です。

 これはどのような意義を有するのでしょうか。

 未成年の子は、親権者の親権に服します。父母が夫婦であるならば、二人が共同して親権を行使しますが、離婚するとなれば、いずれが子の親権者となるのか決めることになり、以後、親権者たる親が、子の居所を決定する権限を有する、と考えられます。

 このような状況で、親権者ではない親が子と離れることを拒否し、親権者たる他方の親に子を引き渡さない、とすれば、親権者たる親は、子の引き渡しを求める権利に基づき、解決を図ることになります。

 これまで、このような権利を実現するための強制執行方法を明確に定めた規定はありませんでした。

 そのため、裁判所において、債務者に対し、子の引き渡しを拒む期間に応じた金銭の支払いを命じるという方法(間接強制)は選択できるとしても、さらに、動産の引き渡し請求を実現するための強制執行の場合に準じて、執行官が債務者のもとから子を連れてくるという方法(直接強制)を選択できるのかは明確ではなかったのですが、法改正により、子の引き渡しを求める権利を実現するため、直接強制の方法を選択できることが明確化されました(改正民事執行法174条等)。

 

<改正民事執行法174条>
1項 子の引渡しの強制執行は、次の各号に掲げる方法のいずれかにより行う。
 1 執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法 
 2 第172条第1項に規定する方法 
2項 (省略) 

<改正民事執行法175条>
1項 執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な方法として、債務者に対し説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。
 1 その場所に立ち入り、子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすること。
 2 債権者若しくはその代理人と子を面会させ、又は債権者若しくはその代理人と債務者を面会させること。 
 3 その場所に債権者又はその代理人を立ち入らせること。
2項 (省略)

 

 改正法に基づき、どのような運用がなされることになるのか注目されます。

※改正民事執行法は、2020年5月17日までの「政令で定める日」に施行されます。

続く

弁護士 八木 俊行

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