コラム

133 第三者の株式保有状況の調査は「証券保管振替機構」で

2023年11月19日

 株式(株式会社の構成員である株主の地位・権利)は、財産的価値があるため、第三者の株式保有状況を把握する必要が生じることがあります。

 例えば、債権者が債務者の財産状況を調査する一環として、債務者が株式を保有するのか、保有するとすればどのような株式で、何株があるのか、といったことを把握したいと考えることがあります。

 また、遺産相続において遺産状況を調査する一環として、遺産中に株式が存在するのか、存在するとすればどのような株式で、何株があるのか、といったことを把握したいと考えることもあります。

 第三者の株式保有状況を把握する方法はあるでしょうか。

 

 株式には上場株式と非上場株式がありますが、上場株式は、証券会社に口座を開設し、証券会社を介して証券取引所で売買することになるため、証券会社を対象に調査することが考えられます。

 もっとも、証券会社は複数存在するため、調査対象となる証券会社を特定できるならばともかく、全ての証券会社を調査対象とするとすれば大変な時間と労力を要することになります。

 

 そこで、一般的に利用される手法が、証券保管振替機構(正式名称「株式会社証券保管振替機構」)を調査対象にする、というものです。

 

 かつて、株式に関し、株券が発行されていました。株式は株券と一体化しており、売買などによる株式の権利移転の際には株券を交付していました。

 もっとも、それでは不便だということで法改正があり、現在では、法律上、株式に関し、株券の発行は求められておらず、株券を発行したいと考える株式会社のみ、その旨を定款に記載し(会社法117条7項)、株券を発行することになりました。

 そのため、株式に関し、株券が存在しないという状況が生じることになりました。

 そして、株券が存在しない株式を売買などで権利移転するためには、「社債、株式等の振替に関する法律」が定める「振替機関」(同法1条2項)、「口座管理機関」(同法2条4項)が作成する振替口座簿の記載・記録によることとなりました(同法128条1項「株券を発行する旨の定款の定めがない会社の株式(譲渡制限株式を除く。)で振替機関が取り扱うもの(以下「振替株式」という。)についての権利の帰属は、この章の規定による振替口座簿の記載又は記録により定まるものとする」)。

 

 証券保管振替機構は、上記の「振替機関」に該当するものです。

 なお、上記の「口座管理機関」は、市中の銀行や証券会社、農業協同組合などが該当します(同法44条1項)。

 証券保管振替機構は一つしかありませんので、同機構を対象に調査することが便宜である、ということになります。

 

 冒頭に二つの事例を示しました。

 このうち、相続における遺産調査の局面については、相続人は、証券保管振替機関に情報提供を求めることができますので、これによって遺産たる株式に関する一定の情報を把握することができるでしょう。

 他方、債務者の財産調査の局面については、債権者において、債務者に対する権利の存在を公的に証明する裁判所の確定判決などを取得しているのでない限り、証券保管振替機関から情報を得ることは困難と考えられます。

 

名古屋・伏見の弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
名古屋市中区錦2丁目8番23号
キタムラビル401号
(地下鉄伏見駅1番出口・丸の内駅6番出口各徒歩約2分)
法律相談のお申し込みは