コラム

109 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(3)

2019年08月16日

先回からの続き

 ただし、最高裁判所昭和59年4月27日判決は、前記判断に続き、次のような判断も示しています。

 「相続人が、右各事実を知つた場合であっても、右各事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である」

 

 相続放棄できる3か月の起算点について、最高裁判所昭和59年4月27日判決の判断・考え方は次のように整理できます。

 

(原則)
相続人が、「相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った」時から3か月は起算される。

 

(例外)
相続人が前記各事実を知ってなお相続放棄をしなかった場合、次の場合には、「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時」から3か月は起算される。

 相続放棄しなかったのは「相続財産が全く存在しないと信じた」ためであり、かつ、「被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情」があり、「相当な理由があると認められるとき」

 

 現実的に、相続人は、被相続人が死亡したことを認識しており、自分が相続人であることも認識している、ただ、被相続人に債務があるとまでは認識しておらず、相続放棄をせぬまま3か月が経過し、その後、被相続人の債権者であるという者から、相続人に対し、被相続人の債務の履行を求める催告書が送付される、というケースは、ままあるように思われます。

 このような場合、相続人を保護するべき必要性は高いと言えるでしょう。

 では、債権者側はどうでしょうか。
 そもそも、債権者は、本来、被相続人に履行を求めるべき立場にあったのであり、相続によって履行請求できる相手方が増えるというのは、いわば偶然の事情によるものに過ぎないと評価でき、保護するべき必要性が高いとは考えにくいでしょう。

 裁判所が、相続放棄の熟慮期間たる3か月の起算について、原則的ルールと例外的ルールを示し、比較的柔軟な処理を認めてきた背景には、この問題に関するそのような各関係者の利益状況があるためではないでしょうか。

続く

弁護士 八木 俊行

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