コラム

102 「いじめ」と不法行為責任(2)

2019年08月8日

先回からの続き

 2019年8月7日付毎日新聞朝刊に、ある国会議員の男性(本コラムでは氏名が重要というわけではありませんので、以下では「甲」と記載します)が、元秘書の男性に対する行為を問題視され、警察から任意の事情聴取を受けた、という趣旨の記事が掲載されていました。

 記事によれば、元秘書の言い分は次のとおりです。

 「週刊新潮の記事によると、元秘書は昨年秋ごろに甲の秘書になり、暴言や暴行を受けるようになったという。今春には乗用車を運転中に甲から文句を言われて何度も肩を殴られたといい、医師の診断書を取って6月に新潟県警に提出。さらに7月にも甲から蹴られ、退職したとしている」(※原文中の国会議員の姓を「甲」へ置き換え)

 警察が甲から事情を聴取した、ということは、警察は、元秘書の言い分などの事情を踏まえると、甲の元秘書に対する行為は刑法上の犯罪に該当する可能性があると考えたということでしょう。 

 

 当然のことではありますが、子供同士の出来事であろうとも、学校内の出来事であろうとも、ひとしく法律は適用されます。

 すなわち、「いじめ」と呼称される児童・生徒間のやり取りにも、不法行為に基づく損害賠償請求などの民法の規定は適用されますし、暴行罪、傷害罪、あるいは強要罪といった刑法の規定も適用されます(ただし、刑法上、14歳未満の者には刑事責任能力がなく刑事責任を問えない、とされますので、そのようなケースでは少年法の問題となります)。また、時に、それは児童・生徒の保護者の法的責任の問題ともなります。

 上記の国会議員の行為(より正確には、元秘書の言い分によると存在したとされる国会議員の行為)が、刑法の適用が問題となるような性質のものであるとするならば、「いじめ」と呼称される児童・生徒間のやり取りの内のかなりの部分は、民法、あるいは刑法の適用が問題となり得るものであることが明らかではないでしょうか。

 

 

 2011年10月、滋賀県大津市内の中学2年生が飛び降り自殺した、という痛ましいとしか表現できない事件が発生し、さまざまな報道がなされていました。

 2019年2月19日、大津地方裁判所は、この事件に関する民事事件(損害賠償請求事件)において、被告らの不法行為責任を認める判決を下しました。 

 翌20日の毎日新聞朝刊では、1面で、「いじめで自殺 予見可能」、「大津地裁 元同級生に賠償命令」との見出しのもと、「大津市で2011年、市立中学2年の男子生徒(当時13歳)が自殺したのはいじめが原因だとして、遺族が当時の同級生3人と保護者に計約3850万円の損害賠償を求めた訴訟で、大津地裁は19日、いじめ行為と自殺との因果関係を認め、元同級生2人に、請求のほぼ全額となる計約3750万円の支払いを命じた」、「過去の同種訴訟では、いじめと自殺の関係性が認められても、個別の事情で起きた『特別損害』とされる例が多かったが、今回の判決では、一般的に予見可能な『通常損害』とした」と報じられていました。 

 すでに判決から5か月以上が経過していますが、たとえ子供同士の出来事であろうとも、学校内の出来事であろうとも、ひとしく法律は適用されるのだ、という当然のことを明確に示しているように思われますので、その要点などを紹介したいと思います。

 なお、判決は裁判所HPで公開されています。同判決に関して本コラムに記載するところは、公開されている判決から把握できることのみです。 

続く

 

弁護士 八木 俊行

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