コラム

7 生前贈与は相続時に精算されます~遺言・相続・遺産分割の話6~

2014年01月8日

 同順位の法定相続人の相続分は均等。それが原則です。
 ですが、それでは、一部の相続人だけが被相続人から生前贈与を受けていたような場合、不公平な結果となってしまいます。

 そこで、民法は、このような場合、遺産(相続開始時の被相続人名義の財産)に生前贈与されていた財産の価額を加えたものを相続財産とし、これをもとに各相続人の相続割合を乗じて相続分を算定した上、生前贈与を受けていた相続人については、算定された相続分から生前贈与された財産の価額を控除した残りを相続分とするものとしています(民法第903条1項)。

 

 抽象的でわかりにくいですね。
 例えば、父が死亡して相続が開始、この時点での遺産は現金1000万円、相続人は子Aと子Bの2人、Aだけが父の生前に現金500万円の贈与を受けていた、というケースを考えてみましょう。
 先ほどの民法903条1項によれば、相続財産は相続開始時の1000万円に生前贈与分500万円を加えた1500万円、これをABで均等相続(相続分はそれぞれ750万円)、もっとも、Aはすでに500万円をもらっているので同額を控除した250万円が相続分となる、ということになります。
 相続開始以前の財産移転まで検討対象とすることで、相続人間の公平が図られる、というわけですね。
 このように生前贈与を遺産に算入する扱いを「持ち戻し」といいます。
 民法上、「持ち戻し」の対象となるのは、①遺贈(遺言による財産処分)、②婚姻のための贈与、③養子縁組のための贈与、④生計の資本としての贈与の4類型とされています。
 これらを特別受益といいます。

 

 特別受益とされるべき生前贈与には時的な制限がありません。法律上は、何十年前の贈与であっても特別受益である、ということになります。
 そのため、例えば、「妹は嫁入りの時に親から嫁入り道具だけでなくいくらかの現金をもらっていた」、「弟だけ大学に行かせてもらっていた」という主張がなされることにもなるわけです。
 しかし、現実には特別受益にはなかなか難しい問題もあります
 特別受益に特有の問題ではありませんが、当事者間で争いとなった場合には生前贈与の事実を証明しなければならず、これが難しい場合が多いのです。(次回に続く)

 

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
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