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コラム
4 自筆証書遺言が無効となる場合~遺言・相続・遺産分割の話3~
2013年10月4日
自筆証書遺言は、全文、日付、氏名を自書しなければなりません(押印も必要です)。
これは遺言が遺言者の真意によるものであることを明確にするためである、と説明されます。
各要件の解釈を巡り、自筆証書遺言の有効性が争われた過去の裁判例の一部をご紹介します。
遺言者が病床にあり単独での筆記が困難であるとすれば、遺言の作成に際し、同居の近親者が添え手をする、ということもあるでしょう。このような遺言は遺言者が「自書」したものと言えるでしょうか。
この点については、一定要件を満たす場合(①遺言者が証書作成時に自書能力を有すること、②遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするため支えを借りただけであること、③添え手をした他人の意思が介入した形跡がないことが筆跡から判定できること)、「自書」の要件を満たし、遺言は有効である、と判断した裁判例があります(最高裁昭和62年10月8日判決)。
つまり、第三者が添え手をしても当然に遺言が無効となるというわけではありません。
もっとも、そのことと、これから遺言を作成しようという場合にどうするべきかは別の問題です。
将来の争いのもとはできる限り除いておくべきであることからしますと、これから遺言を作成しようという場合、遺言者がお一人で遺言を作成することが困難なのであれば、そもそも自書を必要としない「公正証書遺言」の作成を検討されるべきではないでしょうか。
次に、日付を記載する、という場合、通常、年月日を記載するものと思いますが、例えば「平成25年9月」のように、年月の記載のみで日の記載がない場合、あるいは、例えば「平成25年9月吉日」という記載がなされている場合、「日付」の記載があると言えるでしょうか。
これらの点が争われた事件で、前者の問題については遺言の有効性を否定した古い裁判例があり、後者の問題については遺言の有効性を否定した最高裁判例があります(最高裁昭和54年5月31日判決)。
ですから、これから遺言を作成しようという場合、作成日付としては年月日すべてを忘れずに記載しなければなりません。
次に、氏名を記載する、という場合、通常、氏と名の両方を記載するものと思いますが、氏のみ、あるいは名のみが記載された遺言は、「氏名」の記載があると言えるでしょうか。
この点に関し、名のみが記載された遺言について、具体的事情のもとでは記載された名が遺言者を指すことが明らかである、として遺言の有効性を肯定した裁判例があります。
もっとも、これから遺言を作成しようという場合には、「氏名」としては氏と名の両方を記載し、将来、この点が争いのもととならないようにしておくべきです。
ところで、前回の記事では言及していなかったのですが、どのような形式の遺言を作成するかに関わらず、遺言の作成には、遺言者に一定程度以上の判断能力が備わっていることが必要です(民法第963条も「遺言者は、遺言を作成する時においてその能力を有しなければならない」としています)。
そのため、深酒で酩酊しわけが分からないような状態で遺言を作成しても無効となります。
当然と言えば当然のことですよね。
そして、この点をめぐって遺言の有効性が争われることも多いのです。
例えば、遺言を作成しようとする方が、高齢等のため認知症を発症しているとすれば、判断能力が低下した状態が継続することになります。遺言には作成日付が明記されますので、近親者等であれば、当時の遺言者の判断能力がどの程度であったのか、すぐに分かります。遺言ゆえに何らかの不利益を受ける人は、当然、この点を捉えて遺言の無効たることを主張することでしょう。
現実に、遺言作成時の遺言者の判断能力を理由として自筆証書遺言の有効性を否定した裁判例は、多数存在します。
ちなみに、公正証書遺言であっても、この点から有効性に疑問符が付き、争いとなることがあります(有効性を否定した裁判例も散見されます)。
このようなことからしますと、これから遺言を作成しようという場合であって、もし、この点に不安がおありでしたら、あらかじめ医師の診断書を取得しておくなどの措置を講じておくべきでしょう。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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