コラム

8 特別受益を証明できるか~遺言・相続・遺産分割の話7~

2014年03月5日

 「妹は結婚した時に嫁入り道具を持たせてもらっていた」
 「弟だけ大学に行かせてもらっていた」
 

 このような主張を当人らが認めない場合、生前贈与の事実は資料(証拠)によって証明しなければなりません。
 裁判所での争いとなれば当然のことですし、裁判所外での話し合いの段階であっても、合理的な資料もなく当人らを説得することは困難でしょう。
 ですが、数十年も昔の事実を証明することは、容易でない場合が多いのです。

 

 また、こちらから相手方の特別受益を指摘すれば、こちらにも特別受益があったと相手方から指摘されてしまうかもしれません。
 先ほどのケースであれば、妹や弟の特別受益を指摘したお兄さんは、逆に妹や弟から、「そういうお兄さんだってお父さんに家を建ててもらったじゃないか」と言われてしまうかもしれません(ちなみに、このケースですと、不動産の権利関係については登記されるのが一般的であるため、家を建てた事実だけは登記簿から明らかとなることが多く、その結果、お兄さんの特別受益だけが明らかとなり、不利な立場に立たされる、という展開も十分に考えられます)。
 

 そのようなことから、特別受益の問題がとことん争われる、というケースはさほど多くないのではないかと思われます。

 

 ところで、被相続人は、特定の相続人に対する生前贈与について、その意思で、相続の際に特別受益として遺産へ持ち戻して計算しなくてもよい、とすることができます。これを「持ち戻しの免除」といいます。
 例えば、前回のコラムに登場した父と子ABの例で、父が子Aへの生前贈与500万円について持ち戻し免除の意思表示をしていたとすれば、子A及び子Bは、相続の際、原則通りそれぞれ500万円を取得することになります。
 子Bは不公平と感じるかもしれませんが、そもそも被相続人は、遺言を作成しておくなどの方法によって自分の財産を自由に処分できる立場にあった以上、被相続人がその意思で特定の相続人に対する生前贈与について、特別受益としての持ち戻しを免除することも当然に許される、ということになるわけです。
 

 ただし、被相続人の財産処分の自由には重大な例外があります。
 よく知られているように、被相続人といえども法定相続人の遺留分を侵害することはできません(遺留分についてはまた機会を改めます)。
 そのため、被相続人による持ち戻し免除も、これにより他の相続人の遺留分を侵害するような場合には許されない、とされています(民法903条3項)。