コラム

5 遺言(遺書)は作成しないのが当たり前?~遺言・相続・遺産分割の話4~

2013年10月11日

民法は、相続による財産承継について、被相続人が遺言(遺書)を作成している場合と作成していない場合の2つを想定しています。
 民法制定当時、立法者は、私的自治を基本とする現代社会の価値観からすれば、死後の財産承継のあり方を明確に定めておくべく遺言を作成することが一般化するものと予想していたのではないでしょうか。
 

 ですが、遺言はそれほど利用されているのでしょうか?
 周囲を見回しても、死後に備えて遺言を作成している人はあまりいないような気がしてなりません。むしろ、親族の誰もが法定相続による均等な財産承継を予想(期待?)していたのに、被相続人の死後、予想外に遺言が存在することが明らかとなり、遺言の効力の大きさからトラブルとなってしまうことが多いのではないかと思うのです。

 

 遺言制度がどの程度利用されているのか、統計を調べてみました。
 平成20年における遺言公正証書の作成件数は7万7878件であり(日本公証人連合会調べ)、自筆証書遺言の家庭裁判所での検認件数(※1)は1万3962件でした(法務省「司法統計」)。合計でも9万1840件です。
 一方、平成20年における日本の総人口は約1億2700万人であり、65歳以上人口は約2800万人でした(総務省統計より)。
 自筆証書遺言の作成件数は検認件数を上回るはずであることもあり、これらの数字の解釈はいろいろだと思いますが、私は、日本では遺言は作成しないが当たり前で、むしろ遺言を作成することの方がごくごく例外的なのだと理解しました。
 なぜ、遺言制度はあまり利用されていないのでしょうか?
 遺言を作成する、ということは、法定相続のルールによる財産承継とは異なる財産承継方法を定める、ということですから、法定相続の場合と比べれば誰かの取得分が減る、ことになります。そのようなことに気が引ける人が多いということなのかもしれません。
 あるいは、遺言がなくともトラブルにはならないと思われている方が多い、ということかもしれませんし、そもそも遺言制度自体が広く社会に知られていない、ということなのかもしれません。

 

 ただ、遺言を作成するかはともかく、相続人の間で争いにならないようにすること、そのために事前に配慮しておくことの重要性は、今後、ますます高まっていくはずです。
 平成27年1月以降の相続については、相続税の基礎控除額が縮小されることが決まっています。現在のルールでは相続税の課税対象ではなかった相続のうちに、課税対象となるものが出てくるわけです。
 法律上、宅地等の課税価格評価減に関する特例(小規模宅地等の課税価格計算特例)など、相続税を軽減するための特例が定められていますが、特例の適用を受けるためには、相続税申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)のうちに、相続人の間で遺産の取得方法が決まっていなければなりません。
 つまり、相続争いが長期化し、遺産分割方法が決まらないようでは、全体として見ればそのご家族の負担は大きくなります。
 今後、遺産分割において、相続税の処理を念頭に置かなければならない事例は増えるはずであり、もめない相続の重要性はますます高まっていくはずです。
 これに対処するための選択肢の一つとして弁護士に相談することも考えられますが、もし、弁護士に相談されるのであれば、紛争が起きる前、つまり相続に関していえば相続が開始する前にされるのがより適切であると考えます。

 

※1 自筆証書遺言など、公正証書遺言以外の遺言は、相続開始後、遅滞なく家庭裁判所に提出し、検認(遺言書の偽造、変造を防ぐための検閲・認証手続)を請求しなければなりません。ちなみに、その義務を負うのは、遺言の保管者、あるいは、保管者のない遺言を発見した相続人です。