コラム

50 結婚と離婚の法律問題(9) 婚姻費用分担を免れる場合

2019年03月27日

先回からの続き

 「婚姻関係にある男女は、相互に婚姻費用分担義務を免れることはできない。仮に別居していたとしても夫婦である限り、その収入・資産に応じて相互に婚姻費用(生活費)を負担しなければならない」

 それが原則的な結論と言うことになりますが、例外的に、婚姻関係が継続していたとしても婚姻費用の負担を免れ得る場合がないわけではありません。

 その例として、「婚姻費用の分担を求める立場にある者が、夫婦が別居している事態に対して責任があると評価できる場合」が挙げられるでしょう。
 このような場合に婚姻費用の分担請求が否定されるのは、自らの責任で円満な婚姻関係の継続を困難にしているにも関わらず、他方配偶者に対して婚姻費用の分担を求めることは信義に反しており、許されないと考えられるためである、と説明されます。

 

 このようなケースに関する判断を示したものとして、名古屋高等裁判所平成27年10月2日決定があります。

 公表されている情報から簡潔化すれば、夫・Aが、妻・Bが第三者と不貞行為に及んだことを把握し、Bに対して自宅退去を求め、AとBの別居が開始した後、BからAに対して婚姻費用の分担請求がなされた、という事案において、まず津家庭裁判所平成27年7月17日審判は、Bの不貞行為が婚姻関係破綻の大きな原因となっているものの、Aにも破綻の一因はあったとして、Aは婚姻費用として算定表による金額より相当程度減額された金額を負担するのが相当である、と判断しました。

 これに対して、Aが、不服申し立てをしたところ、名古屋高等裁判所平成27年10月2日決定は、BがAに対して「婚姻費用の分担を求めることは、信義則上許されない」として、Bによる婚姻費用分担請求を排斥しました。

 これらの裁判例からは、婚姻費用分担請求をする立場にある者が、夫婦の別居等、婚姻費用の分担請求を必要とする状況に対して一定の責任がある場合、その責任の程度に応じて、請求し得る婚姻費用の金額は相応に減額される、事情によっては一切認められないことになる、と整理できます。

 

 ところで、以上とは全く別の問題ですが、負担するべき婚姻費用の相当金額は、夫婦相互の「資産、収入、その他一切の事情を考慮して」決まるべきものです。

 夫婦の一方が負担するべき婚姻費用の金額が決まったとしても、その後、別居期間が長期化するなどすれば、双方の収入が増減するなど、事情変更が生じることは当然にあり得ます。そして、金額算定の基礎となるべき事情に変更が生じている以上は、相当なる婚姻費用の金額についても、変更が認められてしかるべき場合がある、ということになります。

 このような場合、まずは当事者間の協議によって解決されるべきであり、これによって解決できない場合は、家事調停手続、さらには家事審判手続を通じて解決が図られることになります。

続く

弁護士 八木 俊行

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