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コラム
48 障害者の逸失利益(2)
2019年03月25日
先回からの続き
東京地裁平成31年3月22日判決では、②消極損害(逸失利益)をどのように認定するのかが問題となりました。
②消極損害(逸失利益)は、被害者の基礎収入(年収)を認定した上、これに就労可能年数など一定の係数を乗じて算出される扱いですから、逸失利益の金額は、基礎収入(年収)をどのように把握するかに大きく左右されます。
そして、前記事件で関連するところに限れば、一般的には概ね次のように考えられていると言えるでしょう。
「未就労の学生が被害者である場合、原則として、基礎収入(年収)は全年齢平均賃金による。ただし、生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合は、年齢別平均賃金又は学歴別平均賃金を採用する」
「被害者が無職という場合であって、高齢や重度の障害のため就労するだけの能力や就労の意思を欠く場合には、逸失利益は認められない。その程度に至らない場合は、個別事情に応じて逸失利益を認定する」
このような考え方を前提として、被害者が障害を負うなどされていて、就労能力を認定することが困難な場合においては、逸失利益が認められるとしても、これを算定する際の基礎収入は、平均賃金から一定割合を減額するという扱いが一般的であったのではないでしょうか。
このような状況において、東京地裁平成31年3月22日判決は、逸失利益の算定に際し、「19歳までの男女の平均賃金を基礎」としました。
本件では、被害者は当時15歳の男性であったわけですが、前記の通り、一般的には、未就労の学生は、「原則として、基礎収入(年収)は全年齢平均賃金による」とされていること、19歳までの平均賃金(男女計・学歴計)は全年齢平均賃金(男女計・学歴計)の半分程度であることから、被害者が障害を有さない場合に比べれば、賠償金額は相当程度減額されている、ということになります。
しかしながら、基礎収入の認定に際し、平均賃金を一定割合で減額することはなかったのですから、これまでの一般的な扱いと比べれば、より高額な賠償金額を認定した、ということになります。
毎日新聞の記事によると、東京地裁平成31年3月22日判決は「『障害者雇用政策は転換期を迎え、知的障害者の就労の可能性を否定するのは相当ではない』と指摘」したということですから、この判決の背景には、社会が変化した、あるいは変化しつつある、という事情が存在するのでしょう。
記事には今後の控訴の可能性について言及はありません。
仮に、被告とされた施設側が賠償責任保険に加入しており、保険会社が利害を有するならば、保険会社はこの判決を容認するのだろうか、そして、控訴となった場合、高等裁判所はどのように判断するのだろうか、といった点は気になるところです。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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