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コラム
47 障害者の逸失利益(1)
2019年03月24日
昨日(平成31年3月23日)付けの毎日新聞朝刊に、「障害者の逸失利益2200万円」との見出しで、「知的障害のある少年が入所施設から抜け出して亡くなり、将来得られたはずの収入を算定する『逸失利益』の有無が争われた訴訟で、22日の東京地裁判決(田中秀幸裁判長)は約2200万円の逸失利益を認めた。地裁は施設側に慰謝料を含め計約5200万円の賠償を命じた」との記事が報じられていました(以下、この判決を「東京地裁平成31年3月22日判決」と言います)。
本日現在、判決全文は確認できておらず、新聞記事以外の情報はありません。記事によると、被害者は当時15歳の少年(男性)であり、施設側は逸失利益は生じないと反論していたものの、判決は逸失利益の発生を肯定した上で、これを算定する際に「19歳までの男女の平均賃金を基礎とした」ということです。
法律の適用によって解決されるべき問題にはさまざまなものがありますが、その一つに「損害賠償請求事件」があります。簡潔に言えば、ある人が、他の人の債務不履行、あるいは不法行為によって損害を被った場合、損害の賠償を請求できるというものです。
民法は金銭賠償を原則としますから(民法417条、第722条1項)、このような事件では、発生した損害をどのように金銭的に評価するのかが問題となります。
損害には、さまざまなものがあります。例えば、交通事故で車が破損し、けがをしたという場合、どのようなものが考えられるでしょうか。
①積極損害
破損した車を修理するためには修理費用が必要であり、治療のために病院へ通院するためには治療費や交通費が必要でしょう。
これらは、被害者が修理工場や病院などの第三者に一定金額を支払うということですから、各損害の金銭的評価は比較的はっきりしていると言えるでしょう。
②消極損害(逸失利益)
しかしながら、損害は、金銭的評価が明確なものばかりではありません。
けがで仕事ができなくなったとすれば、どうでしょうか。失った利益の金額的な算定は、例えば、定期的な収入を得ている会社員のような場合、比較的容易かも知れませんが、不法行為時において職に就いていなかった、という場合はどのように考えられるでしょうか。
③慰謝料
けがをすれば通院治療せざるを得ないなど、日常生活に支障が生じます。少なからぬ苦痛などの負の感情が生じるでしょう。これは、一体どのように金銭的に評価されるのでしょうか。苦痛の有無・大小はそれぞれの被害者の内面に関する問題であり、これを誰の目にも見えるよう金銭的に評価する、という作業は容易ではありません。
発生した損害をどのように金銭的に評価するのかは、言うまでもなく、これを請求する側にとっても、請求される側にとっても、極めて大きな問題です。
この分野においては、交通事故に起因する損害賠償問題について裁判所の判断が積み重ねられ、「①積極損害」、「②消極損害(逸失利益)」、「③慰謝料」のそれぞれについて一定の考え方が確立され、判断基準が共有されていると言えるでしょう。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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