コラム

46 結婚と離婚の法律問題(8) 婚姻の効力・婚姻費用の分担

2019年03月19日

先回からの続き

 

<婚姻の効力>

③婚姻費用の分担

 夫婦は、その資産、収入、その他一切の事情を考慮して、婚姻から生じる費用を分担する義務を負います(民法第760条)。一般的に「婚姻費用分担義務」と呼ばれるものです。 

 夫婦は、その収入や資産等の事情に応じて、夫婦及び未成熟子の共同生活を支えるために必要な費用を負担し合いましょう、ということですが、それは常識的に考えれば当然のことであり、夫婦関係が円満ならば、特段、意識することさえないのかも知れません。すなわち、婚姻費用分担義務の問題が顕在化するのは、夫婦が別居生活を開始した場合なのでしょう。

 

 独立行政法人労働政策研究・研修機構のホームページに、「専業主婦世帯と共働き世帯」という統計資料が確認できます。これによれば、1980年(昭和55年)当時、共働き世帯数は600万超であったのに対し、専業主婦世帯数は1100万超であったということです。なお、直近の2018年(平成30年)時点では、共働き世帯数は約1219万であったのに対し、専業主婦世帯数は約600万ということですから、1980年(昭和55年)当時と比べれば、比率はほぼ逆転しています。

 すなわち、戦後日本では、ある時期まで、夫は会社員等として稼働して毎月の収入を得て、妻は専業主婦として子供たちの養育を含めた家事に従事するという例が多数を占めていました。

 このような場合、家族の生活費は夫の収入に依存していると言えるでしょう。そして、このような場合において、夫は毎月の給与を、家事を取り仕切る妻に対して生活費として渡していたのにも関わらず、夫が家を出て別居を開始するのと同時に、収入の一切を自らの管理下に置き、妻や子に対して生活費を渡さなくなったという場合、夫は婚姻費用分担義務を果たしていないのではないか、ならば妻は夫に対して家族の生活費として具体的にいくら請求できるのか、というように、問題が顕在化するわけです。

 

 婚姻費用分担義務は、婚姻の効果にほかなりません。夫婦が別居していようとも、婚姻関係が継続する限り、すなわち正式に離婚が成立しない限りは、法的な夫婦であることに何ら変わりはない以上、夫婦が互いに婚姻費用分担義務を負う状況は継続します。

 前記事例で言えば、妻は、別居中の夫に対し、原則として離婚が成立するまでの間、婚姻費用分担義務の履行、すなわち毎月の生活費の支払いを求めることができる、ということになります。 民事の問題ですから、まずは当事者間の協議によって解決されるべきものですが、これにより解決できない場合には、家事調停手続、さらには家事審判手続を通じて、解決されることになります。

 夫からすれば、離婚問題を解決しない限り、毎月の婚姻費用分担を免れることができないわけですから、婚姻費用分担の問題は、離婚問題解決へのインセンティブとなる、と言うことができるかも知れません。

  

 婚姻費用分担義務に関しては、婚姻費用の相当額は具体的にいくらであるのか、が問題となります。

 そして、この点に関しては、裁判官による共同研究の結果、作成された「養育費・婚姻費用算定表」が長らく裁判実務、あるいはこれに先立つ当事者間の任意協議の段階で活用されてきたことが広く知られています(「養育費・婚姻費用算定表」は、東京家庭裁判所HPにも公開されています)。

 「養育費・婚姻費用算定表」は、婚姻費用に関して言えば、婚姻費用を請求する権利を有する側と婚姻費用を負担するべき義務を負う者の収入の相関関係や、各人の自営業者か給与所得者かといった立場の差を考慮して、1か月あたりの相当額の相場が示される、というものです。これによる算定金額は、時にあまりに低額であり、婚姻費用を受け取る側が生活を維持することさえままならず不相当ではないか、という指摘はかねて存在しており、近時、これを踏まえ新たな算定基準も提唱されているところです。

 

 いずれにしても、ある夫婦が別居生活を開始したという場合、当面の生活費を誰が、どのように負担するのか、という婚姻費用分担義務のあり方は早急に決定されるべき問題です。

 別居後、それまで生活費を負担していた他方配偶者から生活費を一切もらっていない、という方に時にお目にかかることがありますが、そのような状況は、法的には直ちに是正されるべきものにほかなりません。

続く

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
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