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コラム
45 結婚と離婚の法律問題(7) 夫婦は当然に同居しなければならないのか?
2019年03月18日
先回からの続き
<福岡高等裁判所平成29年7月14日決定>
佐賀家庭裁判所の審判に対して、乙が不服申し立てをし、上級審である福岡高等裁判所が審理することになり、結論として、原審である佐賀家庭裁判所の審判を取り消す旨の判断が示されました。
決定では次のようなことが指摘されています(決定の一部を抜粋)。
「抗告人と相手方は夫婦である以上、一般的、抽象的な意味における同居義務を負っている(民法752条)」
「しかしながら、この意味における同居義務があるからといって、婚姻が継続する限り同居を拒み得ないと解するのは相当でなく、その具体的な義務の内容(同居の時期、場所、態様等)については、夫婦間で合意ができない場合には家庭裁判所が審判によって同居の当否を審理した上で、同居が相当と認められる場合に、個別的、具体的に形成されるべきものである」
「そうであるとすれば、当該事案における具体的な事情の下において、同居義務の具体的内容を形成することが不相当と認められる場合には、家庭裁判所は、その裁量権に基づき同居義務の具体的内容の形成を拒否することができるというべきである」
「同居義務は、夫婦という共同生活を維持するためのものであることからすると、共同生活を営む夫婦間の愛情と信頼関係が失われる等した結果、仮に、同居の審判がされて、同居生活が再開されたとしても、夫婦が互いの人格を傷つけ、又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には、同居を命じるのは相当ではない」
「かかる観点を踏まえれば、夫婦関係の破綻の程度が、離婚原因の程度に至らなくても、同居義務の具体的形成をすることが不相当な場合はあり得ると解される」
「諸事情を踏まえると、現時点において、抗告人と相手方について、同居義務の具体的内容を形成するのは不相当と認められる状況にある」
「条件付きであるとはいえ、現時点での同居を命じた原審判は相当ではなく、取消しを免れない」
このように、婚姻関係にある夫婦は、一般的・抽象的には同居義務を負うとされるものの、同居義務の具体的内容はなお未確定であり、この問題について当事者間の協議によって解決できなければ、裁判所が判断を示すことになります。
そして、裁判所は、常に同居義務の具体的内容について判断を示すというわけではなく、その夫婦に関する具体的事情から、同居義務の具体的内容を形成することが不相当と考えられるならば、当該夫婦に対して同居を命じないことがある、ということになります。
ところで、裁判所が当事者に対して同居を命じる審判を下したとしても、当事者が任意に同居義務を履行しない場合、裁判所における強制執行手続を通じて同居義務を履行させることは、およそ困難であろうと思われます。なぜならば、同居義務は、単純な金銭支払義務とは異なり、これを履行する上では当事者の意思が重要な要素となっており、当事者の意思に反して、裁判所が履行を強制することは不適当と考えられるためです。
前記の佐賀家庭裁判所の審判でも、「同居義務が強制履行を求めることのできないもの」と述べられています。
結局、夫婦が負うことになる同居義務は、当事者によって任意に履行されるべきものであり、法的手続を通じて実現を図ることにはなじまない、と言えます。
同居義務の不履行に関する当事者間の対立が深刻化しているような場合、同居義務に着目し、いかにして法的手続を通じてこれを履行させるか、ではなく、すでに婚姻関係は破綻しているとして、婚姻関係を解消(離婚)するべきか否かが問われるのではないか、と考えられます。
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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