コラム

35 労働審判手続は迅速解決を重視(2)

2019年02月22日

先回からの続き 

 労働審判手続は、制度上、最終的には、審理主体が審判の形式で解決基準を示すことが予定されているなど、一般的な民事訴訟手続に近い面もありますが、これと異なる点も多数存在します。 

 

 まず、一般的な民事訴訟手続では裁判官が審理主体となりますが、労働審判手続では、労働審判官(裁判官から選任されます)と労働審判員(労働関係に関する専門的知識と経験を有する者から選任されます)から構成される「労働審判委員会」が審理主体となります(労働審判法第7条~第9条)。

 また、審理期間について、労働審判手続では、原則として3回以内の期日に審理を終結しなければなりません(労働審判法第15条2項)。これに対して、一般の民事訴訟手続では、そのような制限は特にありません。そのため、時に延々と期日が続行されることもあります。

 また、労働審判手続では、当事者は、やむを得ない事由がない限り、第2回期日終了までに主張と証拠を提出しなければなりません(労働審判規則第27条)。これに対して、一般の民事訴訟事件では、時機に後れた主張や証拠の提出は裁判所の判断によって排斥されることがありますが、第何回期日終了まで、というように、画一的な提出期限が設定されているわけではありません。 

 また、労働審判手続では、審理主体である労働審判委員会は、審理終結に至るまで、調停(当事者間の協議による解決)を行うことが可能とされます(労働審判規則第22条。なお、一般の民事訴訟手続でも、裁判官は、随時、当事者に対して和解を勧告できるとされていますが、第1回期日あるいは第2回期日という手続の冒頭から和解勧告することは一般的ではないでしょう)。

 そして、労働審判手続では、調停による解決に至らない場合、労働審判委員会の合議により「労働審判」の形式で、解決基準が示されます(労働審判法第20条)。 この「労働審判」に対し、当事者は異議を申し立てることができます。当事者が異議を申し立てれば、労働審判は効力を失い、手続は訴訟手続へ移行します(労働審判法第21条、第22条)。なお、当事者が異議を申し立てないならば、「労働審判」は、裁判上の和解と同一の効力(つまり、訴訟手続における判決と同一の効力)を持つとされます(労働審判法第21条4項)。

 したがって、そもそも当事者が労働審判手続を通じた解決を受け入れないと考えられる事案では、わざわざ労働審判を下すことに意味がないとも考えられますので、労働審判委員会は、「事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるとき」、労働審判手続を終了させることができるとされ、この場合にも、手続は通常訴訟手続に移行することとされています(労働審判法第24条)。

 

  現実に関与してみると、通常の民事訴訟手続と比べ、とにかく進行が早いと感じられる労働審判手続ではありますが、その迅速さゆえに、平成18年4月の制度導入以来、手続を利用した当事者からは好評を得ている、ということでした。 

 したがって、個別労働事件において、迅速な解決を目指すならば、まずは労働審判手続の選択を検討するべきことになります。今後、我が国では雇用関係が流動化する傾向が強まるであろうことが予想されることからしますと、迅速解決を重視する労働審判手続の重要性はますます高まっていくのでしょう。

  

 最後に、備忘も兼ね、裁判官の講演で印象に残ったことなどを記載します。 

「労働審判手続は、緻密な主張・立証の上にざっくりとした解決を図るものである」 

「申立人サイドは、第1回期日までの期間短縮のため、申立書について、裁判所から補正依頼がなされることのないよう、提出前にしっかりとセルフチェックを」 

「第1回期日の調整には柔軟な対応をして欲しい。すでに入っている予定をずらすくらいの意識を持って欲しい」

「適切な手続選択を。その事件が労働審判手続になじむのか見極めて欲しい」 

「裁判所からの参考事項照会書には、早期に回答を」

 名古屋/伏見通法律事務所 

弁護士 八木 俊行