相続人の選択肢(個人の皆様に)
被相続人と一定の身分関係にある親族は、相続人(法定相続人)として、被相続人に帰属していた権利義務を承継する立場に立ちます。
もっとも、相続人は、当然に被相続人の権利義務を承継するわけではありません。
相続人には、権利義務を一切承継しない(相続放棄)、被相続人の負債について相続で承継する財産の範囲で責任を負うとの条件付きで承認する(限定承認)、相続人として権利義務を承継する(単純承認)、という3つの選択肢があります。
相続放棄
まず、相続人には、相続を放棄し、被相続人の権利義務を一切承継しない、という選択肢があります。
相続人は、相続開始後、いつまでも相続放棄できる、というわけではありません。相続放棄できるのは、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に限定されます(民法915条1項)。この期間は、家庭裁判所の判断によって延長することも可能です(同条2項)。
相続人は、この期間内に被相続人の財産関係や負債関係を調査して、相続放棄するか他の選択をするのか判断することが想定されています。
3か月の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、被相続人が死亡したこと、これによって自分が相続人となったことを知った時である、と考えられています。では、これらの事情を認識してから3か月が経過すると、もはや相続放棄する余地はないのでしょうか。
(参考)
▷コラム107 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(1)
▷コラム108 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(2)
▷コラム109 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(3)
▷コラム110 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(4)
▷コラム111 相続を放棄できる3か月とは?(最高裁令和元年8月9日判決)(5)
相続放棄をするためには、その相続について管轄権を有する家庭裁判所に、しかるべく書式でもってその旨を申述し、受理される必要があります。家庭裁判所外で相続放棄する、ということはあり得ません。他の相続人に対し、相続放棄する旨を伝えたとしても、それは民法が定める相続放棄ではありません。
相続放棄すると、その相続人は最初から相続人ではなかったことになります。
限定承認
「相続によって得た財産の限度で被相続人の負債を弁済する責任を負う」という条件付きで、相続を承認することを「限定承認」といいます。
限定承認できるのは、相続放棄と同じく、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に限定され(民法915条1項)、この期間は、家庭裁判所の判断によって延長することも可能です(同条2項)。
限定承認をするためにも、家庭裁判所に、しかるべき方式にて申述する必要があります。
(より詳細には)
▷限定承認とは何か?
単純承認
相続人として、被相続人の権利義務を何らの条件を付すことなく承継することを承認することを単純承認と言います。これにより、相続人は、無限に、被相続人の権利義務を承継することになります(民法920条)。
単純承認をするために、何らかの方式は不要です。家庭裁判所への申述も不要であり、相続放棄、あるいは限定承認できる3か月が経過すれば、単純承認したことになります。
また、相続放棄などができる3か月が経過する前であっても、相続財産の全部、又は一部を処分するなどすると、単純承認したものとみなされますので、注意が必要です(民法921条)。
事実関係の調査・把握と選択、紛争への対処
相続を単純承認するべきか、あるいは放棄するべきか、などを判断する上では、まずは資料を踏まえ、被相続人の財産状況や負債の状況を把握する必要があります。その上で選択した相続放棄などの効力が、相続人間で、あるいは債権者との関係で争われることもあるでしょう。
まずは、ご相談下さい。トラブル・紛争の早期解決に向け、共に一歩を踏み出しましょう。
(参考)
民事事件はどのような過程を経て、解決されるのでしょうか。弁護士はその過程にどのように関わるのでしょうか。
民事事件の解決過程と弁護士の関与
弁護士 八木 俊行
伏見通法律事務所
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