損害

賠償されるべき損害とは

一般的に、損害は、不法行為ゆえに支出を余儀なくされた金額(積極損害)、不法行為ゆえに失った逸失利益(消極損害)、不法行為ゆえに生じた精神的苦痛(慰謝料)の3つから構成される、と考えられています。

交通事故による積極損害の例としては、治療費や通院交通費が挙げられます。

また、消極損害の例としては、事故ゆえに休業せざるを得なくなり失った収入(休業損害)や、後遺障害によって労働能力の一部が喪失されたと考えられる場合における将来にわたる逸失利益(後遺障害逸失利益)が挙げられtます。

積極損害と消極損害は、ある程度、客観的な根拠、計算式でもって金額を算定することができるでしょう。

では、慰謝料の金額はどのように算定するのでしょうか。

目に見えない精神的苦痛を金銭的に評価するわけですから、そのような作業は本来的に不可能です。

したがって、実務的には、過去の事例の積み重ねから形成された相場を算定基準とせざるを得ません。

 

慰謝料を含め、損害の金額を算定する基準として絶対的なものが存在するわけではない

慰謝料の算定は、過去の事例を踏まえた一定の算定基準に従ってなさるのが通例です。法律は公平に適用されるべきことからすれば、過去の同種事件で一定金額の慰謝料が認められているならば、別の事案でも、同水準の慰謝料が認められてしかるべき、と考えられます。

 

慰謝料の算定について、唯一無二の絶対的な算定基準が存在するのかと言えば、必ずしもそうではなく、複数の基準が存在します。

一つには、強制保険である自賠責保険(自動車賠償責任保険)に基づく保険金支払基準があり、これには慰謝料の支払基準も含まれています(自賠責基準)。

また、任意保険会社が保有する支払基準があります。これは内部資料であり、公表されていません(任意基準)。

そして、裁判所が交通事故に関する賠償問題を解決する際に用いる算定基準があります。これは書籍として公表されています(裁判基準)。

一般的には、上記3つのうち、自賠責基準が最も低額であり、裁判基準が最も高い、そして、任意基準は裁判基準を下回る、と理解されています。

 

裁判手続を通じて損害賠償金額を獲得するためには、相応の時間と労力を要します。弁護士費用も要することがあるでしょう。そうしますと、このような負担なく、早期解決により、損害賠償金を得られることには、被害者にメリットがあると言えます。したがって、任意保険会社が提示する損害賠償金額が、裁判所が示すはずの損害賠償金額と必ずしも一致しないことにも、相応の理由があると言えるでしょう。

 

算定基準が必ずしも1つではない、というのは、慰謝料だけの問題ではありません。

一定の計算を経て算定される休業損害や後遺障害逸失利益といった消極損害についても、算定方法について、さまざまな考え方があり得ます。やはり絶対的な算定基準が存在するわけではありません。

 

以上のところから、ことの成り行きとして、賠償金額をできる限り抑えたいと考える側(加害者はそのように考えるでしょう)は、できる限り低額に賠償金額を算定するでしょうし、賠償金額をできる限り高額にしたいと考える側(被害者はそのように考えるでしょう)は、できる限り高額に賠償金額を算定するでしょう。

したがって、損害賠償の金額は一義的に明確に決まるものではなく、事故当事者の一方が提示する損害賠償の金額は絶対的なものではない、ということになります。

 

弁護士 八木 俊行

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