コラム

98 平成29年民法改正(4) 保証が変わる⑥

2019年07月16日

先回からの続き

 平成29年5月の民法改正のうち、「保証人に対する情報提供のあり方を定めたもの」の3つ目として、主債務者は、事業のために負担する債務を主債務とする保証などを委託するときは、委託する相手方、すなわち保証人となる者が法人でない限り、この者に対し、次の情報を提供する義務を負うこととなりました(改正民法465条の10)。

①財産及び収支の状況
②主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
③主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

 

 債務を保証するべきか否かを判断するためには、主債務者の財務状況や収支の状況、債務負担状況、主債務に関する担保の設定状況などの情報を得ることが必要不可欠です。ことに、主債務が事業のために負担するものである場合、保証人が負担するべき金額は高額となる可能性が高いことからすれば、適切な判断を下すため、情報を得る必要性が高いと言えます。

 そこで、事業のために負担する債務について、主債務者が、法人以外の者に保証を委託する場合、主債務者自身、あるいは主債務に関する前記各情報を提供する義務を負うことになりました。

 

 では、主債務者が、このような情報提供義務を怠るとどのようなことになるのでしょうか。

 この点は、改正法に明記されており、主債務者が、所定の情報を提供せず、あるいは事実と異なる情報を提供したことによって、委託を受けた者が事実を誤認し、これにより保証した場合であって、債権者が、このような事情を知っているか、あるいは知ることができた場合は、保証人は、債権者と締結した保証契約を取り消すことができる、とされました(改正民法465条の10第2項)。

 主債務者の情報提供義務の履行状況に瑕疵がある場合、保証人は、保証契約を取り消して保証関係から離脱し得ることとされたものの、常に取り消せるわけではなく、一定要件を満たす場合に限定されました。

 保証人保護のためには、主債務者の情報提供義務の履行状況に瑕疵がある場合には、保証契約を取り消すことで保証人を保証の負担から解放することが望ましいことは当然ではあるものの、他方で、債権者からすれば、自身が知らず、かつ知り得なかった事情によって、事後的に保証人がいなくなるとすればその利益を著しく害することとなるため、債権者が、事情を知り、あるいは知り得た場合に限り、保証人保護を図るものとされました。

 

※参考
(契約締結時の情報の提供義務)
改正民法465条の10 
1項 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2項 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3項 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。

※平成29年改正民法は、原則として2020年(令和2年)4月1日から施行されます。

続く

弁護士 八木 俊行

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