コラム

91 個人情報の流出と慰謝料の金額(2)

2019年07月8日

先回からの続き

 この事件では、企業が管理する顧客の「氏名・住所・電話番号」といった情報の流出が問題となりました(原判決を確認したところ、他にも、メールアドレスや出産予定日が流出した顧客もおられたようです)。

 「氏名・住所・電話番号」といった情報は、例えば、私自身が小学校に通っていた30年ほど前には、クラスの名簿や卒業アルバムなどに当然のように記載されていたと記憶しますが、現在では全く異なる扱いがなされているようです。

 2005年(平成17年)には個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)が施行されるなどしており、この間、これらの情報の取扱いに対する意識には劇的な変化が生じた、ということなのでしょう。

 

 個人情報保護法上、保護されるべき「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報」であり、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」とされます(同法2条1項1号)。

 顧客の「氏名・住所・電話番号」といった情報は、「個人情報」に該当すると考えられます。

 また、個人情報取扱事業者である企業は、個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない(同法20条)とされるなど、情報を適正に管理するべく多くの義務を負うことになります。

※同法上、個人情報を含む情報の集合物であって、パソコンなどで検索できるよう体系的に構成された情報を「個人情報データベース等」と言い、「個人情報データベース等」を構成する個人情報を「個人データ」と呼ぶものとされています。

※同法上、個人情報データベース等を事業のために利用する者を「個人情報取扱事業者」と呼ぶものとされています。

 

 

 このような状況ですから、企業が保有する個人情報が合理的な理由なく外部に流出したというならば、顧客は、企業に対して、何らかの法的責任を問いうるのではないか、と考えられるところではありますが、具体的な金額としていくら請求できるのか、となると、判断は容易ではないように思われます。

 東京高等裁判所令和元年6月27日判決は、企業が管理する顧客の氏名、住所、電話番号といった顧客情報が流出した場合において、1人あたり2000円の慰謝料を認容しました。このような事例におけるひとつの目安となるのでしょう。 

 

 

 原審である平成30年12月27日の東京地裁判決を確認したところ、慰謝料は1人当たり3000円との判断を示していました(東京地裁平成30年12月27日判決は裁判所HPで閲覧できます。慰謝料額に関する部分では、「情報の使用方法によっては、取得された者の私生活の平穏等に一定の影響が及ぶおそれがある」「自己の了知しないところで自己の個人情報が漏えいしたことへの不快感のみならず、それによる影響に対する不安感を生じさせるので、精神的損害が生じるといえる」「これらの情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者に開示することが予定されている個人を識別するための情報又は個人に連絡をするために必要な情報である」「個人の内面等に関わるような秘匿されるべき必要性が高い情報とはいえない」「現時点で、ダイレクトメール等が増えたような気がするという程度以上に財産的損害その他の実害が原告らに生じたことはうかがわれない」被告において「顧客の選択に応じて500円相当の本件謝罪品の交付を申し出るなどしている」といった事情が考慮されていることが注目されます)。

 また、過去の、全く別の情報流出事案においては、より高額の慰謝料が認められたケースもあります。

 東京高等裁判所がどのような理由から原審判決よりも低額となる2000円という具体的金額を認定するに至ったのか、判決内容を確認したいと考えているのですが、残念ながら、現時点では確認できていません。

 

弁護士 八木 俊行

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